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やらない理由を探す人々の研究

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 自分の中で、未だに、有効な方法が分からないことが一つあります。
 それが、「やらない人間を、行動に移すようにする」ことです。
 ※挑戦的な目標を設定して行動する場合の話です。

 当然、一般的な技法は、駆使してはいます。例えば、社会的意義や、どれほど利益になるか理詰めで説いて、リスクを減らして、動機づけやモチベーション対策、実現可能性を感じさせる簡単にできる手順の提示など、いろいろな技法を尽くしても、「やらない人間を、行動に移すようにする」こと、こればっかりは、難しいと感じます。
 言われなくても「やる人間はやる」し、どれだけの理を尽くしても「やらない人間はやらない」とも言えます。

 こうした、「やらない理由を探す人々」は興味深いテーマであり、密かに研究を続けてきましたが、ここで、研究成果を公開したいと思います。

やらない理由を探す人々の事例

 個人的には、人間の意思決定、特に集団意思決定ほどいい加減なものはないと思っています。
 最初に痛感した経験は、当時、勤務していた会社が経営危機に陥って、私が社長の声掛りで若手代表として経営改革提案をしたときでしたが、私の提案は痛みを伴う内容もあり、全く相手にされず、むしろ社内権力への挑戦として管理職クラスからバッシングを受けてしまいました。
 当時の経営幹部は、痛みを伴わない、夢のある一発大逆転的な対策を掲げていましたが、どう考えても、それでは会社が無くなると忠告したのですが、聞き入れられませんでした。(その後、結局、会社は消滅)

 この時の経験により会社を辞めて、無職になって中小企業診断士の勉強を開始するのですが、逆に周りの人達は私の人生戦略が理解できないようで、「職歴に空白があると誰も雇ってくれないぞ」「資格なんて何の意味もない」「早く就職しろ!」的なことをいつも言われていました。
 当時の私の人生戦略は、既に技術士だったので、「中小企業診断士と技術士(建設部門)、二つ持っていれば、経営と技術の両方合わせて面白い人生が歩めるだろう」、「普通では関与できない世界に関われるに違いない」という程度のものです。
 しかし、30代半ば(当時)の人生戦略として、どう考えても私の方に理があると思いませんか?

 これからは、やりたいように生きると決めていたので、自分のやり方を邁進し診断士合格まで4年(無職2年、働きながら2年)も掛かりました。はっきり言って診断士挑戦中からも面白い事ばかりで、合格後、調子にのって即独立して、5年目くらいまではかなり苦戦しました。
 独立というのは、自分でリスクを負って、自分で考えて行動しなければならないのですから、苦戦の中も面白さもまた格別です。 ※やっぱり自分の人生戦略の方が正しいと確信しています。

 さて、独立後ですが、コンサルタントとは、企業や個人に提案や助言をする商売なわけで、やはりそこで「やらない理由を探す人々」に頻繁に遭遇してしまうことになります。
 
 どれほど理詰めで提案しても、初めから「やらない」と決めていて、「もし~したらどうする」「○○だからできない」と、やらない理由を並べていく感じです。そこで、全部、論破したと思ったら、また最初から、さっきと同じ「やらない理由」が堂々巡りです。この手の人を、まともに相手にすると、消耗してしまいます。
※他の診断士は、どうやって対処しているのでしょうか?

「やらない理由を探す人々」が、断じてやらない理由

 理屈では分かっていても、必死にやらない理由を次々に並べる人を観察していると、理論を超えた何か本能的な恐怖に支配されていることが良く分かります。
 つまり、いくら理詰めで説得しても、恐怖の元を解消しない限りは、決して行動に移ることはないでしょう。
 理屈で理解しても「やらない理由を探す人々」と「やる人」の違いは、こうした「恐怖心」に対する反応の個人差ではないかと推測します。
 
 企業内で見かける「やらない理由を探す人々」に特徴的な傾向を整理すると以下の3点が挙げられます。

  1. ゼロリスク志向、目に見える損失には敏感だが、機会利益・損失(将来利益や損失)には無関心
  2. 比較対象(同僚など)との「相対的優位」に満足感を感じる価値観 
  3. 組織依存的で安定を重視、「機会の平等」より「結果の平等」を重視する価値観

 こうした人達は、表向きは組織への貢献、忠誠心をアピールしていても自己保身を優先し組織・社会全体の利益には、あまりに無関心です。また、取り組みにかかる支出(お金)には敏感ですが、取り組んだ場合の組織の利益、取り組まなかった場合の損失(機会損失)には鈍感です。
 つまり、投資的発想がまるでありません。
 一方で、社内での立場、同僚との地位や収入の相対的優位に対する関心がとても強く、相対的関係が少しでも崩れそうなことには断固反対します。
 例えば、経営危機で総額人件費を削減する場合でも、組織のフラット化や成果給には断固反対しますが、一律カットで減る分にはあまり反対しません。(組織内の地位や収入の相対優位に変化がないため)
 面従腹背で企業に勤めて、やってもやらなくても、結果(地位、収入、安定)だけは平等にしてほしいと思っています。
 日本人の企業への貢献意欲は、先進国中、断トツの最低らしいですが、日本の美しき伝統文化、年功序列の終身雇用ってやつですね。

 大体の、日本的組織は、こうした人達が徒党を組んでいます。社内の公式組織より非公式組織が強く、暗黙の社内秩序があります。
 「やらない理由を探す人々」が何を恐れるかというと、「社内での立場を失うこと」です。例えば「社内いじめの対象となる」、「部下や後輩が上司になる」ことです。
 つまり、挑戦的な取り組みなどに、うっかり賛成してしまうと、社内の○○さんを怒らせてしまいます。
 社内秩序への挑戦として、組織全体から公式、非公式に、どんな嫌がらせを受ける分かりません。
 しかし、社外に飛び出したら今まで築き上げた立場をすべて失い、ゼロスタートです。
 何もしないで、会社が潰れて、みんな仲良く失業するなら平等で、ワーストケースではありません。
 そのため「今の社内の立場、地位を失うくらいなら、会社なんて潰れる方がまし」と考えているのです。

 だから、やらなければ破滅という状況であって、理屈で理解できても、断じて受け入れることはできません。これがやらない「理由を探す人々」の仕組みです。
 やれるのは、痛みと支出の伴わない、一発大逆転的、希望的観測を積み上げた計画のみです。
 現実は「やってる感を見せるだけ」「みんなで力を合わせて頑張ろう!」的な精神論のみです。そうやって、どんどんダメダメになっていきます。

※現在の日本社会そのもののような気が。。。

一方で、やる人間の特徴は下記の点が挙げられます。

仮説思考で生きている

 世の中は不完全である前提で、事前の情報もあてにならず、やってみなければ分からないことを認識しています。でも不完全だからこそチャンスもたくさんあることも分かっています。
 その中で、公私を切り離し、理詰めで挑戦の成功確率やリスクを認識し、受け入れた上で判断できる素養があります。

②自分の価値を高めることが最大のリスク管理という価値観

 何かに頼らず「自分のことは自分で何とかするしかない」と考えています。心身を鍛え、資格取得、業務キャリアを積んだり、転職、副業など、いろいろ挑戦したり、自分の価値を高めることに関心が高い傾向があります。

③将来の幸福度を最大にする可能性の高い選択している

 仮説思考で「挑戦するorしないのケースで10年後はどちらが幸福か?」と言う風に、投資的支出(時間やお金)、リスク、機会利益・損失を総合的に評価し、将来の幸福度を最大にする可能性の高い人生選択をします。
 機会損失は目に見えませんが、視点を未来の自分に置き換えて「将来、後悔するかどうか」、「やった後悔orやらない後悔」のどちらがましか?といった思考回路で評価し、人生の選択ができる人達です。※後悔回避志向というらしいですが。

 こうした、仮説思考で挑戦できる人は、仮説レベルとリスク管理さえしっかりしていれば、挑戦を繰り返し、いずれ成功できるでしょう。※だからマネジメントの知識は大変重要です。
 慎重かつ臆病な人ほど、実は、挑戦には向いていると思います。

 一方、挑戦できる人でも、勘と運だのみで行動する大胆かつ無謀な人間は、大成功したり破滅したりします。
 ギャンブラー的、人生ジェットコースタータイプですが、こうした人は、ハイリスク・ハイリターン状態に無常の喜びを感じちゃう人達です。遠くから見ている分には楽しいですね。

やらない理由を探す人々への対応方法

 先にも述べた通り、やらない理由を探す人々の多くは、組織内での生存欲求レベルでの恐怖に怯えています。このような人達に、どれだけ理論で説得しても決して行動に移ることはないでしょう。
 唯一の方法は、経営トップが強いリーダーシップを持っていて、提案を実行することです。
 実行しなければ組織に存在できないのであれば、行動するしかないでしょう。

 コンサルタントとして提案する場合、経営主体ではないので、そのやり方は不可能です。
 では、現実のコンサルの場面で、「やらない理由を探す人々」に出くわしてしまった場合どうすべきか方法論を述べます。

その1:現状否定、痛みを伴う提案はしない

 経営診断の大きな流れは、目標設定→現状分析(SWOTなど)→現状の問題点→対応策という流れを取ることが多いのですが、内部環境などで現状の問題点を指摘すると「俺たちが悪いっていうのか」などと騒ぎだす人が出て来ます。
 なるべく、現状否定表現は避けた方がスムーズでしょう。次に、痛みの伴う提案が要注意です。組織変革や成果測定などの提案は危険であり、システム導入やら社内交流の活発化などは、あまり文句はでません。
 その場合、「現状、何も悪くないけど、みんな仲良く頑張りましょう」的なロジックのぼやけた提案になってしまうでしょう。
 コンサルの仕事としては、恥ずかしいレベルかもしれません。
 しかし、どれほど理論的に正しくて、顧客の能力的に十分可能であっても、経営トップがやる気も主体性もなく、組織文化的にも受け入れられない状況で、正論を提案しても、組織に混乱を巻き起こすだけで、却って顧客に迷惑をかけることになりかねません。
 相手組織の状況に応じて実行できる内容を提案することも、顧客への配慮の一つかもしれません。
※経営トップには、必ず、正論の提案をして、長期と短期に分けて、実行が難しい提案は、長期的な課題として情報は伝えるべきだと思います。

その2:代わりに全部やってあげる

 やらない理由を探す人々に提案すると「じゃあお前がやれ」という言葉が返されることがありがちです。
 そこで、「代わりに全部やってあげる」という直接役務提供するビジネスの方が、ずっと需要があります。まあそれは厳密にはコンサルじゃないですが。
 しかし「代わりに全部やってあげる」と、今度は、ふてくされて、妨害する側に回ります。それで成功しても感謝もしてくれません。
 「代わりに全部やってあげる」をビジネスとする場合は、相手のプライドを傷つけないように、決して目立たずに、こっそりやってあげることです。
そして、成功した場合は、「やらない理由を探す人」の手柄にしてあげると「私が自分で考えてやりました!」なんて本気で言い出します。そして表向きは感謝しませんが、内心は感謝してくれます。
 ただ、手柄は譲っても「きっちり報酬はいただく」そこだけは注意しましょう。
 こうした「裏ハンズオン方式」のコンサルは、結構いけると思います。
 世の中には、こういう会社に入り込んで、「裏で代わりに全部やってあげて」、コンサルがいないと会社が回らない状況にして、最後は会社を乗っ取ってしまう悪徳コンサルがいるようで、恐ろしい話です。

その3:なるべく関わらないようにする

 やらない理由を探す人々への対応方法として、「なるべく関わらないようにする」のが、最も有効な対応方法でしょう。
 ちなみに、私は「不毛なものに関わらない」、「自分でコントロールできることに集中する」に二点を、人生戦略の重要テーマにしています。
 理由は、無駄な消耗したくないからです。やらない理由を探す人々を相手に、裏でやってあげて成功させて、相手に花を持たせて。。。。そこまでやることに、楽しさを感じません。
 やはり、打てば響くような人を相手に、感謝されるような仕事をしたいと思っています。

「顧客からコンサルを申し込む」「顧客が自腹でコンサルフィーを払う」の二点を守れば、リスクを負って行動する覚悟がある顧客が多くなり、こうした人達は減少します。

 また、ビジネスフローも、多くの人は、信用とネットワークを強調して、連携やパートナーを増やしたがりますが、営業、受注~終わりまで、なるべく一人で完結できる他人に頼らないビジネスモデルの方が楽です。
 一人で完結できるビジネスモデルを構築した上で、外部と組む場合は、win-winでフラットな関係の人と組むと楽です。
 相手に依存したり、相手が自分に依存したりする関係の連携は、気苦労が多いと思います。

おわりに

  私は、やる気のない相手に提案する等のお節介は焼かない主義ですが、時々、あまりにも勿体ない状況を見ることがあります。
 「ちゃんと取り組めば、大幅に利益が増えて仕事も楽になって、一石二鳥どころか一石五鳥くらいの良い事尽くめなのにな~」というようなこともあります。
 そこで、つい提案をしてしまうのですが、「やらない理由を探す人々」が現れて。。。「勿体ないお化け」がでそうです。
 その度に「自分でコントロールできることに集中しよう」と反省するのですが、数年すると忘れて、あまりに勿体ない状況を見ると、また、ついやってしまいます。
 最近も、またやらかしてしまったので、この記事を書いてみました。

 「やらない理由を探す人々」と「やる人」との思考回路は全く違うことが分かったと思います。
 多くの組織では、圧倒的多数の「やらない理由を探す人々」と、ごく少数の「やる人」が混在しています。
 「やる人」にとっては、そうした組織に居続けることは、窮屈なことです。

 組織からドロップアウトする恐怖は、その多くは錯覚です。自己投資を積んだ価値のある人材が、無職になることなど、生存レベルの脅威ではありません。
 ※といくら説得しても恐怖は消えることはありませんが、外の世界に飛び出して数年経てば実感できると思います。

 一方で、「挑戦する人」の世界では、大胆かつ無謀な人がかなりを占めています。その多くは、危機管理能力が低く、思い込みと勢いだけで挑戦するから失敗してしまいます。

 現在、大きな社会変化に合わせて様々な新たなニーズが生まれています。
 顧客に価値を提供して報酬をいただく、真っ当なビジネスの世界では、競争の無い手つかずの分野も、まだまだあると思います。 つまり、勿体ない状況があちこちにあるはずです。(仮説です)

 「人行く裏に道あり、花の山」という格言が個人的に大好きなのですが、実際に当てはまることも多いと思います。
 「いつか独立したいけどリスクが」なんて言っている人を見ていると「この人なら成功できるのに、もったいないな~」と感じることもあります。
 臆病かつ慎重な人が、本気で覚悟を決めて動き出したらとんでもないことになります。マネジメント(戦略やリスク管理等)を習得している人は成功確率が高いです。
 企業内で活躍しているけど閉塞感を感じているような人こそ、本能的恐怖を克服して挑戦して欲しいです。
  参考になれば幸いです。

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