シェアする

依頼形態の違いによるコンサルのやり方

シェアする

 このブログの読者の方々は中小企業診断士等を取得し、いろいろなコンサル技法や分析法を勉強してきたと思います。
 
 実際にコンサルタントの現場に入ってみれば、中小企業においては、基本的な経営管理が不十分な場合がほとんどで、経営課題の解決のためにやるべきことは、ある程度すぐに明確になります。
 普通に考えて、その辺まではすぐに分かります。

 次の実行段階で、さまざまな技法を駆使していくことになりますが、ただ、やみくもに、中小企業に完璧な経営管理を提案しても当然実行は不可能ですし、費用対効果的にも割に合わないでしょう。
 当然、コンサル先の制約条件や費用対効果を考慮し、提案先でも実現性の高い、必要最低限の経営管理等を提案したとしましょう。
 それでも、実際に実行段階ではうまく行かない場合が多いものです。
 
 そのような場合、それは、「コンサルのレベルが低いから」、「動機づけが不足している」とか、「説得力がないから」、「合意形成が不十分」とかいろいろな意見があると思います。
 
 当然、コンサル能力不足や、アプローチに稚拙さがあるという点はあると思います。

 しかし、有名なコンサルタント会社でも、実行段階で上手く行く会社は少ないという話を聞いています。
 やはり、どれほど名コーチでも必ず名選手が育つわけでなく、相手の能力以外にも、本気度、モチベーションの部分が大きいと思います。

 しかし、コンサルの場合は、組織が相手であり本気度を見極めるのはかなり難しく、また、顧客の本気度を見極める方法については、どこにも情報がないと思います。
 そこで、相手の本気度を見極めるための方法について、考察してみたいと思います。

まず、コンサルビジネスの特性を認識すべき

普通のビジネスであれば、顧客に価値を提供して報酬を受け取ります。
例えば、商品を売って、代金を受け取る。サービスを提供して、報酬を受け取るといった形です。
コンサルビジネスにおいてもその仕組みは基本的に一緒で、顧客にコンサルサービスを提供し、報酬を受け取ります。

しかし、コンサルビジネスというのは特殊性があります。
コンサルタントはサービス分野に該当しますが、サービス分野の特徴として無形(最終報告書がありますが)であり、それを、顧客との協同作業で作り上げていくことになります。
コンサルビジネスの場合、組織に対してそのサービスを提供し、金額が大きく、期間も長くなります。
 また、サービスを受ける顧客側には苦痛の伴う作業なのです。
 そして、コンサルの成果は、すぐに実感できるものではなく、コンサル後にだいぶ時間が経ってから効果が現れてくるもので、その効果もコンサルを受けた結果なのかどうかも検証は難しいのです。

 金額も大きく、期間も長く、苦痛も伴うサービスを受けて、その成果が出てくるのがずっと後で、効果の検証も難しいとなると、挫折のしやすさが分かると思います。
 そのため、顧客側の協同作業意識や、覚悟、本気度というのは大変重要になってきます。

 しかし、事前に上記の点を理解している顧客は少ない上に、実際には、誰かに言われてコンサルを受けたり、自腹でお金を払っていないなど変則的なケースもかなりあります。

こうした違いを抑えておかないと、ある所でうまく行くやり方も、別の会社では全くうまく行かないと言ったことが起こります。

本気度を見分ける方法は

 「コンサルを受けようと決めた人」、「お金を出す人」、「コンサルを受ける人」、この三要素の関係に注意すべきでしょう。
 この三要素が一致しているほど、本気度が高いと考えることができます。

 ほとんどのサービス業種であれば、サービスを受けようと思う人、お金を出す人、サービスを受ける人が一致しています。
 該当しない例としては、親に言われて(親がお金を出して)、いやいや学習塾に通う子供、みたいなケースが考えられますが、そう考えると、本気度の低さがイメージできると思います。
 
企業の場合、出資者(オーナ、株主)と融資者がいて、経営者がいて、幹部や従業員がいます。
 先に挙げた三要素が一致していないケースが多々あります。

理想的な例は
オーナー企業の社長が、コンサルを気に入って依頼し、社長自らがコンサルを受ける場合です。
コンサルを受けようと思う人、お金を出す人、受ける人の三要素が一致することになります。
 このような場合、経営の所有者と経営者が一致し、その当人が、三要素と一致するわけですから、企業側の本気度は高く、提案内容の実現性も高くなります。制約条件が少ない、思い切ったことを提案できる可能性もあります。
結果として大きな成功をできるチャンスでもあります。

 同じくオーナー企業の社長が、コンサルを気に入って依頼した場合でも、実際にコンサルを受けるのは管理職だったり特定幹部が担当だったりして、経営トップの関与が薄い場合があります。
 この場合、三要素は一致せず、コンサルを受ける当人は、望んだわけでなく、自分でお金を払っておらず、社長に言われてやらされているわけです。
 そこで、社内の利害関係に関する提案や、従来のやり方を変えることについては猛烈な反発が起こったり、怠業が起こる恐れが強いです。
 そのため、提案内容は制約を受ける可能性が高いです。
 新事業開発、webマーケティングの構築みたいな、既存の部分に手を付けない提案は大丈夫ですが、会社全体に関連するような本格的な提案は難しいでしょう。

 オーナー企業であっても、金融機関の要請でコンサルを受けている場合や、経営と所有が分離している会社で、株主の依頼でコンサルを受ける場合があります。ベンチャー企業がファンド等の出資側の要求でコンサルを受けるようなケースが考えられます。
その場合、コンサルを受けようと思う人が金融機関や株主で、お金を払う人は社長(会社)で、コンサルを受ける人が社長か、その部下となります。
このような場合、例え会社がお金を払っていても、経営トップが、金融機関や株主に言われてしぶしぶコンサルを受けているので、本気度が落ちることがあります。
中小企業でも、売上数十億くらいの会社になると、金融機関からの要請でコンサルを受けているケースが多く、銀行グループが抱えているコンサル会社から、半強制的にコンサルを受けている例を結構みます。


※経営者が「これ見てくださいよ」を報告書を持ってきまます。
内容を見ると、財務諸表や、費用内訳等を見て、関連業種平均と比較して、○○費が高いからもっと下げろ、とか、△△比率をもっと上げましょう。みたいな2日くらいで作った提案書で、具体論がなく、最後の結論が、「□□経営管理システムソフトを導入しましょう」みたいな感じのものも何度か見かけました。
経営者が「これでいくらしたと思います?」と聞くので、「想像もつきません」と応えると、「400万の近いところを180万にまけてもらった」とかいうのです。
経営者側としては、メインの融資先との関係維持のための経費のつもりのようでした。
コンサルを押し売りし、財務諸表ベースの提案のみで、併せてIT営業する。よく考えるものですね。

同じように、金融機関や株主からの依頼でも、結果次第で、融資を受けられず破たんの危険が大きい場合、または経営陣が株主に解任される恐れがある場合は、ものすごく本気で、コンサルを受けるでしょう。見極めが重要です。

金融機関からの依頼が多い、事業再生系の業務は、本気度の高い、こういう形態が多いかもしれません。
また、投資家や投資ファンドについているコンサル会社は、株主の代理人という強い立場で、コンサルができる可能性があると言えるでしょう。

ここまでは、お金を払う人と、コンサルを受ける人が一致しています。失敗すると顧客側は、コンサル費用が損失になるリスクを抱えているわけです。
そのため、最低限の本気度は担保されているケースが多いです。

公的支援機関の業務は?

公的支援機関による専門家派遣等は、コンサルを受ける会社側は、ほぼ無料です。
この場合、コンサルを受けようと思う人は社長で、お金は支援機関が出し、コンサルを受ける人は社長か、その部下となります。
 コンサルが失敗した時の、企業側の費用的リスクはゼロになります。

 覚悟も本気度も、かなり低い顧客が混じっていると考えられるでしょう。また、最初は本気度高く真面目にやっていても、ある瞬間、例えば社内で反発が生じたり、機嫌を損ねるような事態があると、「やっぱやめた」となってしまう可能性もあります。
 途中でやめてもリスクゼロですから。
 
 さらに、一回あたりの時間的制約も、訪問回数の制限もあり、やれることにかなりの制約を受けます。
 
 もう一つ、公的支援機関の仕事で注意しなければならないことは、コンサル費用を出しているのも、コンサルタントを最終的に評価するのも、公的支援機関だということです。
 つまり、公的支援機関の仕事を続けていくためには、企業側の評価だけでなく、公的支援機関の評価を得なければなりません。
 むしろ本当の顧客はこちらと思った方がよいと思います。
 公的支援機関の評価は、経営支援の計画書~報告書など提出書類の内容と、支援先の経営者の評価をヒヤリングやアンケートなどで調査し確定してきます。

書類の決裁も多層になり、上層部は現場をみる訳ではありません。支援先の評価以外にも、とにかく、書類等の形式、見栄えと数量と、担当者への礼儀マナー、自身の権威付け、この点を重視していくべきでしょう。

まとめ


 コンサルタントを受ける上で、相手側の協同作業意識と、覚悟、本気度が重要であり、見分け方として、三要素「コンサルを受けようと決めた人」、「お金を出す人」、「コンサルを受ける人」の状況などから、ある程度は、本気度を判断できると思います。
 もし、独立して理想的なコンサルをやりたいのであれば、三要素の一致を重視するなど、本気度を見極めて顧客を選定するとよいと思います。(リスク回避)
 また、顧客側からは、コンサルタントなど事前品質は、イメージできないものです。
 事前にコンサルメニューをイメージできるようにして、あらかじめ、ある程度の覚悟を持っていただくことも重要です。(リスク低減)
 さらに、提案フェーズと、実行フェーズは必ず分けて、実行フェーズへ進むには、トップの関与など本気度について条件を付けることもよいと思います。(リスク分割)
 やる気のない相手に、全社的な経営改善等を提案し、反発だらけで、失敗しても、コンサルは引き上げれば済みますが、顧客側は、社内の人間関係に遺恨を残すと思いますので、なるべく避けましょう。
 ※過去の自戒を込めて書いています。

 ただ、顧客を選定したり、事前に、困難さを周知させたりして、顧客の本気度、覚悟を確認することについては、ビジネス上は難しいと思います。
 可能性を狭めてしまいますし、プロのコンサルタントとして生きていくためには、まず、食べていかないといけませんので、実際は、あまり本気度にこだわらず、相手側の能力と、本気度のレベルに合わせて、やれること最善なことを提案していけばよいと思います。
 
 有名なコンサルタントでも、成功例は少ないと聞くので、やはり完璧さにこだわりすぎない方がよいと思います。