中小企業診断士で独立する人は、良い大学を出て大企業に入り、長い実務経験もある社会的にはエリートに属する人達が多いです。
さらに、診断士の勉強により経営知識がある状態で独立することになります。
そのため独立前は、自信満々の場合も多いと思います。
実際に独立してみると
あいまいな計画で独立した人は、独立した途端、途方に暮れて、公的支援や紹介・人的ネットワークに頼る感じになりで、何年たっても、そこから抜け出せない感じになりがちです。
一方、独立前に綿密に計画を立てる人は、希望的観測に一人で盛り上がって成功を確信してしまう、捕らぬ狸の皮算用になりがちです。
そして、開業投資をして事業を始めたものの、思ったようにいかないケースが多いです。
こうした独立当初から事業を行うパターンの独立は、利益の期待値も大きく、固定費的な毎月の出費も多いので、赤字が続くと、経済的にも精神的にも耐えきれず、消えていくケースが多いと思います。
独立して初めて、自分の実績が、会社の看板、信用、組織、顧客など仕組みが整っていた中での経験に過ぎないことに気づきます。
端的に言えば、いくらサラリーマンの実績と、専門家レベルの経営知識があっても、実戦では思うようにはいかないということです。
机上で、いくらスポーツ教本を読んでも、実際に、練習や競技をしなければ、上手くならないのと一緒で、当たり前のことなのですが、なかなか自覚するのは難しいと思います。
そうした中で、中小企業診断士のような、経営知識もあり、会社員時代の経験豊富な人材が、自分で事業を行う上での、陥りがちな注意点を述べようと思います。
①見栄・お金(承認欲求)に引っ張られる
それなりに社会的地位があった人の起業目的として、社会貢献等の美辞麗句を並べている人が多いのですが、本当のところは「見栄」と「お金」のケースがかなり多いと思います。
過去に創業支援施設に入所していた時は、大企業OBの創業者がたくさんいましたが、「俺が世界を変える」的な壮大な夢を語りつつ、何もしない、出来ない人を見かけました。
もう働かなくても食べていける彼らが、肩書として「起業家、社長」と名乗ることが本当の創業目的なんだろうな~と考えていました。そりゃ「無職」より「代表取締役 社長」の方が、かつての同僚・部下に自慢できます。
「お金」についても、過去に「年収1億円」などと書いた紙を常に持ち歩き眺める人に出会ったことがありますが、「どうしてそんなにお金が必要なのか」と聞くと、結局が高級品を身に着け、贅沢三昧であり、根底に承認欲求的な意図が感じられます。
創業目的が、見栄や、お金だったりする場合は、基本的には上手くいかない場合が多いです。
その理由は、事業そのものへの熱意・モチベーションがないからです。
なんていうか顧客への「愛」が感じられません。
結局、見た目だけを取り繕うための、小手先のテクニックや、「社会貢献的」な美辞麗句、誇大広告、他人のパクリに終始してしまいますし、短期的利益を追求する傾向が強く、粘りがありません。
そうした浅はかさは、顧客にすぐに見破られます。「本質は細部に表れる」とはよく言ったものです。
また、見栄えを取り繕うために、お金を使ってしまいがちです。
本当に事業に情熱を燃やして、価値創造を何年も粘り強く続ける人間には、かないません。
また、お金にこだわる人達の世界は、広く、闇も深いです。
「目的のために手段を選ばず」的感じの人が多く、巧妙な儲け話が転がっています。
安易に飛びついて、自分自身が被害者になるだけでなく、周りの人を不幸にするようなことだけは避けたいものです。
②意思決定と思考回路
自分で事業を行っていると、いろいろな場面で、交渉したり意思決定をしなければなりません。
当然ですが、意思決定の結果は、自分に跳ね返ってきます。
つまりリスクを負います。
意思決定の場面で「?」を感じさせる人を結構見て来ました。
あらかじめ自分の願望を結論にして、そこに理屈付けしていくパターンの思考回路の人が如何に多いか
ファクト重視などと言われていますが、ファクトを希望的観測に無理やりこじつけていく感じです。
無意味に議論の勝ち負けにこだわり、根拠のない主張を繰り返す人、その根拠が「僕の長年の経験」だったりされると議論にもなりません。
また、交渉の場面で、自分の要求を絶対に曲げないだけでなく、妥協したふりをして、動き出してから何度でも諦めずに蒸し返してくる人や、都合の悪いことは一切出さず、耳障りのよいことだけ言って人を利用しようと人もいます。
さらに、都合が悪くなると、自分の権威を振りかざして逆切れする人など、いろいろです。
Win-win的な発想が、根底に感じられません。
かつては、大企業などで立場を利用して、下請けや部下に、理不尽をごり押しして、上手くいったかもしれませんが、自分でやるビジネスでは役に立ちません。
こうした人達は、例え大企業で出世した人でも、本当に難しい意思決定を、自分でリスクを負って決断する経験は積んでいないでしょう。
守られた立場で、組織の空気を読んで、長いものに巻かれるような意思決定は、独立してからは役に立ちません。
どれほど、大企業で長年の経験と、中小企業診断士(経営知識)があっても、こういう思考回路では意味がないです。
自分でビジネスをやろう思ったら、物事について見栄・思い込みや希望的観測を捨てて、断面的な事実を繋ぎ合わせて、深く、広く、素早く考えて、考え抜いて結論を出すようにしましょう。
③ビジネスアイデアの見つけ方
一般にベンチャー企業は、大きな仮説でビジネスモデルを組み立て、綿密な計画の上で、レバレッジを利かせて迅速にビジネス展開を行いますが、それでもベンチャー(冒険的)の名の通り、成功確率は極端に低いです。
どれほど綿密に検討しても所詮は仮説であり、やってみないと分かりません。
そこで、100個事業を立ち上げて、1つの事業が成功すれば、十分に元が取れるような計算で事業を行います。
ハイリスク・ハイリターンというやつです。
自分で起業し事業を行う場合、こうした冒険的なやり方はできないでしょう。
自分で事業を行う場合は、「絶対成功するだろう」というような事業を行うべきです。
例えば、誰も知らない場所に果実がなっていて、そこにいって手で取るだけのようなイメージのことをビジネスにすべきです。
それで、ようやく成功確率20%くらいですが、そういうことに挑戦し失敗しつつも成長し、3回目くらいで本当に成功するようなイメージです。
※ちなみに私の場合も、何度も失敗しています。どれほど有望なものでも、その分野に対して熱量がないとだめですね。
独立前に一生懸命計画を立てて上手くいかないのは、ビジネスのアイデアを、ネットや、友人の話やら一般的に転がっている「おいしい情報」を元にして、取らぬ狸の皮算用をして、一人で盛り上がってしまうからです。
本当に「絶対に儲かる話」であれば、誰にも教えないで自分でやるでしょう?
だから、その辺に、そういう話は転がっているわけがありません。
じゃあ、どうすれば「誰も知らない場所にある果実」を見つけられるのか?と言えば
それは、誰も知らない場所に、自分一人で、踏み込んで探し回ってみつけるしかありません。
④ビジネスのパッケージ感の重要性
ビジネスの可能性を考える時、難しい理論や時間をかけて検討するのではなく、まず、顧客(ニーズ)が存在し、顧客に認知してもらい、サービスを提供し、報酬を頂く、というビジネスの一連の流れを一つのパッケージとして捉える感覚がとても重要視されています。
創業希望者のビジネスアイデアを聞いて、パッケージとして、どこかが欠けているか、曖昧な場合が多いです。
例としては、社会貢献を主張し「僕が日本を救う」とか「人を助ける」ような崇高な経営目的を掲げる方に、具体的に、「誰を顧客にするのか?」と聞いても明確なものがない、具体的なサービスや商品がない、あるいは、「もっと安い代替品があるのに、その商品・サービスに価値があるのか?、お金を払ってくれる客はいるのか?」というようなケースです。
そもそもパッケージとして成立していないケースです。
※指摘すると、大抵逆切れしますので気を付けましょう。
次にパッケージが成立したとして、そのパッケージの「実行能力」があるのかも重要です。
「営業は、〇〇さんと組んで」とか、「実施の部分は、仲間に協力してもらって」みたいな感じで、流れのどこかを、第三者に頼っているケースが多いです。
これは希望的観測かつ、他力本願の最たるものです。
パッケージが、第三者の協力があって成立するものであれば、あるほどリスクが高く、成功確率は低下します。
こうしたビジネスパッケージ感覚は、「商売の勘」に近いと思います。
いくつものビジネスに挑戦してきた人、商売上手な人と会話すると、この辺のビジネスパッケージ感が鋭いと思います。
こういう人と話すと、内容が鋭く、かつ、面白いです。
自分の専門分野だけでなく、常日頃、世の中の身の回りの商品やサービスに対して、ビジネスパッケージ感を常に洞察したりして、その感覚を磨きましょう。
それがアンテナを高くするという意味です。
あせらず、年数をかければ、自分の得意分野で、売れそうで、かつ自分一人で完結できるような、「ビジネスパッケージ」が見つかると思います。
⑤パートナーや連携
ベンチャー企業などのハイリスク・ハイリターン方式では、出資と借入により総資本を形成し、スタートアップメンバーは、ストックオプションのような巨大なインセンティブで共通目標を持ち、その他は、雇用等による人材調達、その他、設備投資、外部専門家を活用して、レバレッジを利かせて、一気に拡大を目指します。
個人でやる場合、そのようなリスクは負う覚悟もないのに、レバレッジだけは利かせたくなります。
そこで、外部パートナーや友情に頼ったりする人が多いのが実際です。
一般には、友人を誘って起業した場合、ほぼ喧嘩別れに終わります。
診断士も新人ほどグループで何かビジネスをやろうとする人が多いですが、こういうビジネスで長期的に上手くいった事例は少ない気がします。
経営組織論的に考えれば、共通目的もなく、熱意、主体性、能力レベルに差がある人達が集まって、同列的な組織構造を作っても上手くいくわけがありませんが、さんざん経営の勉強してきた診断士でも独立前後の時期は、どうしても不安になり群れたくなってしまいます。
※といいつつ、私も群がっていた一人です。
人を使いたいときは、まず自分のビジネスパッケージを、自分一人で成立させて、それなりの収益を上げられるようになってから、しっかり給与を払って雇用するのが一番です。
外部パートナーはコントロールが利かない点は、注意しなくてはなりません。顧客の信用を失うのは本当に一瞬です。
雇用ではない形でやるときは、本当に「信頼できるパートナー」を見つけて、手伝ってもらうような形が良いと思います。
ただ「信頼できるパートナー」を探すのは難しいです。
私も、過去にセミナー講師のパートナー募集をしたことがあります。
診断士やそれ以外の資格者などから、応募は何人かありましたが、診断士の人は、何の下準備もなく、体一つでやってきて日銭を稼げるようなつもりの人が多いです。
また、診断士以外では、私の顧客データを手に入れて、自分のビジネスを直接営業するなど、ありえない行動を取る人が多くて、トラブルばかりでした。
※診断士には、やばい人が少ない点は、信用になると思いました。
※外部パートナーを、たくさん使っている人ってすごいですね。
⑥時間投資的な活動の重要性
個人レベルが起業して成功するためには、成功確率の高いビジネス、「誰も知らない場所にある果実」を見つけて、その場所まで行って、果実を収穫するイメージになります。
言い換えると、以下の三つの作業が必要になります。
・競合のいないニッチな分野での需要・ニーズを、自分で探し回って見つけること
・需要を満たすビジネスパッケージを成立させること
・顧客に認知してもらうこと
この三つの作業に如何に集中できるか、時間をかけられるかが、成功のカギです。
上記作業を、自分で考えて、いざやるとなると、手が動かなくなる人が多く、見た目だけ繕って一般論チックな薄いものになりがちです。
⑦最後は覚悟を決める
どれほど、理屈で分かっていても人間は安易な方に流されすいです。
最後は、覚悟を決めないとだめです。
誰でも、平等に一日24時間あります。1年間で8,760時間です。
その3分の一、1年3,000時間を、投資的なことに使ってください。
石の上にも三年、で1万時間近くになります。
といっても「苦しむ」ということではないです。「考えながら進む」ことが重要です。
「本質は細部に現れる」という言葉を信じて、電車の中、入浴中、散歩中、寝床の中、四六時中考える習慣をつけましょう。
参考コラム:「独立して呑気に暮らすために留意していること」
おわりに(中小企業診断士のメリット)
中小企業診断士を取得した大きなメリットとして痛感するのは、「ビジネス・経営のやり方が分かったこと」、もう一つは、「とりあえず独立」ができる点です。
私も、面白そうだし「とりあえず独立してみるか」的な感じの曖昧な目的で独立しましたが、最初の3年間は、試行錯誤で食べていくのがやっとでした。
そんな感じの独立でも、なんとか食べていけるのが診断士の良い所です。
※参考コラム:「中小企業診断士独立体験記」
その試行錯誤期間で、なんだかんだで、独立している他の診断士と知り合いにもなり、その思考や行動も理解できるようになります。経営コンサル会社でフリーランスもやれますし、なにより、実際に経営者と話したり、経営診断で企業の実態に触れる機会も増えます。
独立すれば、その世界の情報量が圧倒的に増え、さらに普通のサラリーマンでは、味わえない経験も積めます。
3年一万時間もそういうことをやってくると、ブレークスルーというか、目の前の霧が晴れて見えないものが見えてくる感じがします。
そして、自然に、ビジネスチャンスも見えてきてしまいます。
さらに、独立していれば、誰の許可も要らず、そのビジネスチャンスに全力投入することができます。
※一時的に収益を減らす覚悟は必要かもしれません。
参考コラム:「中小企業診断士の独立目的は曖昧でも良いと思う」
こうした「とりあえず独立」し、試行錯誤しながらビジネスチャンスを探す独立パターンは、成功確率が高くなります。
前記の陥りやすい点に気を付けて、中小企業診断士のメリットを十分生かして頑張りましょう。
ご参考になれば幸いです。