中小企業診断士の公的業務・民間業務の売上割合を考察する

 中小企業診断士として独立したら、「企業から直接受注してコンサルとして稼ぐぞ~」と考えている人もいると思います。
 「データで見る中小企業診断士2016」を見ると、「公的業務、民間業務の売上に占める割合」は、ほぼ半々といった感じになっています。
 この値を見て、「思ったより民間業務の割合が大きい、いけるかも」と感じている人も多いと思います。
しかし、その考えは少し甘いです。
 今回は民間業務の実態について考察してみたいと思います。
 (※この記事は、2020年3月(新型コロナパンデミック)以前に書き溜めたものです。)

 「データで見る中小企業診断士2016」の「コンサルタント業務依頼のきっかけ」を見ると、「企業からの直接依頼」は10%以下となっています。
 業務依頼のきっかけは紹介(公的機関、同業その他)によるものが大部分を占めています。
 顧客からの直接依頼が10%以下なのに、民間業務の売上に占める割合が半分というのは、なんとも不思議な感じがします。

 この辺の理由として、公的業務と民間業務の区分の明確な定義がなく、民間業務の中に広義には公的業務と呼んだ方がよいケースがかなり混じっているためだと思います。※あくまで推測です。
 広義の公的業務というのは、報酬の大元が税金であるような仕事になります。

 その例としては

・先輩の下請けとか、中小企業診断士が作っているコンサル会社のパートナーとして仕事を受けて活動している人、元々が公的支援機関から会社が請けた業務の下請け仕事も、民間受注に入っている可能性があります。


・セミナー系の仕事は、セミナー紹介会社経由の仕事が多いと思いますが、公的機関のセミナーも、民間に入っている可能性があります。


・金融機関関連、保証協会関連の業務は、民間業務に入っている可能性があります。
 診断士が作った計画書を持っていけば、特別融資が受けられるとか、債務者区分が緩くなるとか、保証率が下がるみたいな行政の制度に従った業務は、実質は、公的支援に区分すべきだと思います。


・補助金、助成金の類のコンサルも民間に入っている。
 「役所からお金を貰おうコンサル」で、その報酬が獲得した補助金からいただきます。とかそういう仕事も実質は公的業務と言えるでしょう。

 

 こういう部分を控除した純粋に民間からの売上の割合は、かなり少なくなるはずです。
 さらに、その民間からの業務も、セミナーとコンサル、直接受注(元請け)と下請けに分かれます。
 つまり、純粋に民間からの直接受注で、コンサル業務をやっているという人は全体では、ほんの少しだけだと思います。
 (※さらに税理士、社会保険労務士等とのダブルライセンスの人の独占業務での民間受注が混ざっているので、診断士単独となるとさらに少ないかもしれません)

 

ここまでをまとめると
 ・実際は大部分の人が公的(広義)な仕事で食べている。
  ※民間からの受注であっても、実態として、行政の制度に基づく中小企業支援を受けるための業務も多い
 ・業務依頼のきっかけは、大部分が紹介等の人的ネットワークから
 ・民間からの直接受注で高単価のコンサル業務をやっている率は、少ない

 もし、中小企業診断士が独立してすぐに、純粋な民間業務を直接受注して食べていこうとするとかなり難易度が上がると思います。
 競争も激しいですし、顧客は自腹ですから、ちゃんと価値を提供しないと報酬を受け取れません。

 一方、公的な仕事であれば、顧客はほぼ無料です。無料に文句をいう顧客はあまりいません。
 
 「中小企業診断士としての実力が」なんていう人もいますが、個人的には、無料コンサルの顧客の評価はあてにはならないと思います。
 要は、支援機関や先輩からの評価を得ること、それが中小企業診断士としての実力と呼ばれるものです。
 
 でも、逆に考えれば、診断士内部だけの競争で、税金ぶら下がりで、支援機関や先輩に気に入ってもらえれば食っていけるってことです。それで、大したリスクも負わず、自称プロコンと名乗って先生と呼ばれて暮らせるのですから、なかなかおいしい話です。

 と、いとも簡単なように書いていますが、実際は、これが難しいのですね。人によっては。

 (私は、前職がずっと行政相手の仕事だったので、支援機関の評価を得る自信はあります。でももう、そういう仕事は嫌だったのです。さらに、先輩の評価ってのは、全然だめです。組織に向かない人間なのです。)
 
それぞれの志向や適性を考えて判断すればよいかと思いますが、その辺に自信のある人は、公的支援で楽しく暮らしていけるのかもしれません。

 私の場合は、独立3年目くらいから「自腹で報酬を払う覚悟のある顧客に価値を提供して、報酬をいただく」を基本姿勢にして、達成しています。まあ、でも独立最初からそれでやって生き残れたかは疑問です。
 やっぱり独立数年までは公的な中小企業支援業務はありがたいですね。
 「中小企業支援」ならぬ、「中小企業診断士支援」みたいな要素あります。

 どうしても独立後、数年くらいは、助走期間として情報検索、試行錯誤期間が出てくるものですが、この期間に公的業務に関わることで、いくらかでも収入を得られて、情報収集や経験も積めるというのは、中小企業診断士のメリットだと思います。

ただ、公的支援は、一回の専門家派遣に、実際は数十万のコスト(診断士報酬、支援機関職員の人件費や施設費、諸経費をすべて換算すれば)は、掛かっているのです。
 そのコストは、皆さんの納めた税金で負担しているのです。
 公的支援に関わるなら、たとえ顧客は無料で、診断士の報酬が数万円であっても、その裏で生じている実際のコストも考慮して、その数倍の社会的利益をもたらす覚悟は欲しいですね。

 また、こうしたありがたい公的支援というのは、中小企業にとっても、中小企業診断士にとっても、自力で生きる活力を奪う副作用があります。
 この世界に漬かり過ぎると、もう投資的な活動、外の世界へチャレンジする気力がなくなってしまう点は気を付けてください。

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