中小企業診断士の顧問契約の実態について

 中小企業診断士で独立を考えている人で、顧問契約の獲得にあこがれている人は多いのでないでしょうか?

 社長の参謀と言った感じで「顧問」という言葉の響きがカッコいい、もう一つ、安定収入であるという点に大きな魅力を感じるでしょう。

 中小企業診断士の顧問契約の実態について、考察してみたいと思います。
(※この記事は、2020年3月(新型コロナパンデミック)以前に書き溜めたものです。)

1.「データで見る中小企業診断士2016年」で見てみると

 まずこの調査ですが、正会員(9,457名)に対する郵送法で、回答数:1,992名(回答率21.1%)
その内、「顧問契約がある」と回答した人は275名になります。
全体の中で顧問契約がある人は少数派と言えるでしょう。

次に独立している人のデータですが
「公的業務の比率が高い人」のデータ
 顧問契約がある人の割合は23.3%
 <顧問契約のある人の平均顧問先数2.7社、1ヶ月訪問数2.6日、平均顧問料65.4(千円)>

 よって、顧問料収入合計 17万6千円/月 (2.7社×顧問料65.4千円)
 月の全訪問回数7回/月 (2.7社×2.6日)
一回当たりの訪問単価は2.5万円 (顧問料65.4千円÷2.6回)

「民間業務の比率が高い人」のデータ
顧問契約のある人の割合は47.4%
 <顧問契約のある人の平均顧問先数6.7社、1ヶ月訪問数5.1日、平均顧問料170.4(千円)>

よって、顧問料収入合計 114万2千円/月 (6.7社×顧問料170.4千円)
 月の全訪問回数34回/月 (6.7社×5.1日)
一回当たりの訪問単価は3.3万円 (顧問料170.4千円÷5.1回)

 以上から分かることは、
 公的業務中心の人で顧問契約を持っている人は、4人に一人程度、さらに公的業務の報酬単価以上はいただけないということです。
 公的業務は、企業側はほぼ無料ですが、専門家派遣などは回数に制限があります。専門家派遣終了後、継続して支援が必要であっても、数万円の金額ですら自腹で報酬を払おうとする顧客は少ないことが伺えます。
 どれほど、支援側が頑張っても、企業側はそれくらいの価値しか感じていないということです。

 次に民間業務が中心の人ですが、平均顧問料は17万円/月と高額で、平均顧問数も7社近くということで、月の顧問収入が100万以上です。
 一見すると、多くの人から見て「月100万以上の安定収入、これぞ、まさに理想」って感じだと思います。

 しかし、月の訪問回数5回で顧問が7社近くもあると、月34回訪問することになり、一日に何社か訪問していることになります。そして、一回の訪問単価は3.3万円程度になります。単価は公的単価と変わりません。

 経営コンサル的な顧問で、月に5回も訪問するなんてあり得るのか、不思議な感じがします。
 毎週の会議にでも出席するのでしょうか?
 

2.個人的に見聞きした顧問契約の実態について

中小企業診断士の顧問契約の実態について、個人的に見聞きした範囲の話をしていきます。

 よくあるのは、月5万の顧問料で、月2回程度の訪問というものです。
 顧客との信頼もできて、「公的機関は手続きが面倒だし回数制限もあるし、月数万くらいは払うよ」という顧客が少数ですが出てくると思います。
 そうやって、顧問を獲得してきた例かと思います。それで4社、月20万でも安定収入があれば心強いですよね。

 次に、月15万の顧問契約が5社あるという人がいました。何をやっているのか聞くと、中小企業の総務経理業務一式を全部請け負っているんだそうです。
 「1社あたり、月に3日くらいで済むから儲かる」と言っていましたが、「それって顧問じゃないだろ?」と心の中で突っ込んでいましたが、役務の一式請負に近いでしょう。
 まあ、ちゃんと顧客から報酬を貰って、長期的に安定して稼げるのですから、大したものです。
 
 同じように、ホームページ作成・管理とかwebマーケティング一式請負での長期契約とか、社内のIT管理全部お任せみたいな感じのケースも結構あると思います。
 そういうのも顧問契約に入っていると思います。

 さらに、社会保険労務士や税理士などの労務管理や税務経理などの業務委託も、実際は労務・役務提供に近いですが顧問契約と呼んだりします。ダブルライセンスの人も多く、その辺もかなり交じっていると思います。
 その場合、月3万程度の単価で、顧問数50社、100社となる人もいると思いますが、顧問数等の平均値に影響を与えていると思います。
 (データが、中央値ではない点に注意が必要です)

 今までの話を聞いて、どれも「社長の参謀」という感じの「顧問」ではないし、作業量も多くて大変そうじゃないかと失望された人も多いと思います。

 じゃあ、実務作業もなく、経営相談に乗るだけの顧問をやっている人もいるのか、と言う点ですが、実はあります。
 さらに言えば、相談すらほとんど必要ありません。

 それは、「大企業などで出世した人」です。
 ただ、条件として下請けの重層化した構造を持ち、あまり国際競争に晒されていないような産業である必要があります。
 重層化した構造を持つ大企業というのは、巨大な発注権限を持っており、傘下に関連会社や下請け企業を多く抱えています。
 そして、間違いなく年功序列で終身雇用の組織です。
 年功序列というのは、先輩が、気に入った後輩に権限を順繰りに譲っていく仕組みです。こうした組織が何を恐れるかと言えば、先輩を怒らせることです。
 例え引退しても、OB会などのつながりもあり、先輩後輩関係は一生続きます。
 自分を取り立ててくれた先輩方への恩義を一生に渡って返し続けなければなりません。

 そのためこうした企業を引退したとしても、70代くらいまで、関連会社の役員や、下請け企業などを順繰りに渡りあるくことができます。
 日本の元請け下請け関係というのは、元請けが下請けを叩く、という傾向も強く「請けて負けるから請負って書くんだ」なんて言われています。契約書無しで発注したり、支払い段階で値切ったりもうめちゃくちゃです。
 元請け側の担当者の機嫌を損ねると、後で何をされるか分かりません。
 そんな時に役立つのが、元請け大企業OBです。「顧問」と肩書を付けて養っていれば、用心棒代わりになります。とにかく受注や交渉に優位に働きます。
 だから、経営顧問としての能力なんて期待されていません。
 好きな時に来て、好きな時に帰って、威張って、遊んでいればよいのです。
 行政の天下りも同じような構造ですが、巨大な発注権限や許認可権を持つ組織は必ずそういうものが出てきます。

 結局、こうした人達を養うお金は、外注費に上乗せされてしまうので、高コスト構造になります。
 OBはハッピー、下請けは経営が安定、損をするのは株主のみといった感じで、会社を私物化していることと同じですが、「会社は社員のもの」なんて意見が成り立つくらいに、日本では株主軽視が激しく、こういうことが起こります。
 

(※こうやって会社を社員が私物化したから、世界経済が3倍に成長している間、何十年も日本経済は横ばいなんですね)

 国際競争や技術革新に晒されている産業においては、もう限界で、さすがにこういうことは減少してきていますが、そうでない産業は、将来的にもこうした仕組みは存続していくでしょう。
 
 厄介なのは、そうした自覚が本人にないことです。企業のステータスと自己が一体化してしまっていて、自分の実力と思っているのです。
 だから、根拠のない万能感に溢れていても、本当に何もできないおじさんがたくさんいます。
 有名企業出身で、月何十万で顧問をやっているという人を見ても、そういうからくりの場合もある点は留意しておきましょう。

 私も、社会に出てから、そういう世界を目の当たりして、なるほど、「良い大学を出て、大きな会社に入って出世して」っていうのは、そういう意味だったのかと、悟りました。
 でも後から考えてもどうにもなりませんので、諦めましょう。
 
まとめ
 顧問と呼ばれるものは、大部分は、役務・労務提供等であって、経営参謀的なものは少数です。
 また、大企業OBの天下り的なケースも多い点に注意しましょう。

 「顧問」という響きがカッコいいので、民間業務に「顧問」という言葉を使いたがるだけです。
 
 顧問というと、権威だけあって、責任も負わず、目標もノルマもなく、社長のお友達的関係で、相談にのって、毎月定額のお金を貰えるような感じがしますが、現実にそんなことにお金を払ってくれる経営者はほとんどいません。

ビジネスは、価値を提供して報酬を受け取るものです。
 呑気に暮らせるようになりたかったら「価値を提供する能力」を高めることを徹底的に追及していくことが一番の近道です。
 
 ご参考になれば幸いです。

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