毎年、春になると新人の診断士が、研究会などに大量に現れます。
そうした新人診断士は「企業内診断士」と「独立組」という二種類に分かれます。
そして「企業内診断士」と「独立組」を見比べると、企業内診断士の方が優秀に見える現象が起きるようです。
なぜ、企業内診断士の方が優秀に見えるのか、その理由を考察してみたいと思います。
※ここでは、30~40代くらいで独立する若手診断士に限定します。
1.人間の本能的な判断機能について
「人間、見た目が9割」という言葉がある通り、人間は直感的に相手の見た目や、ステータス等の表面的な情報から相手の能力レベルを判断する傾向があります。
これは、例えば、法も秩序もない原始時代に森の中で見知らぬ人と遭遇した場合に、どう対応するのかは死活問題になり得るからです。
この時に、相手が自分より強いのか弱いのか、どの集団に属するのか、相手の集団内での地位等を判断して、出方を決める必要があります。
そこで、見た目や、物腰、格好や言動などから、相手の優劣を判断する本能が人間にはあり、現在人もその本能に縛られています。
企業内診断士の方が優秀に見える現象が起こる要因として、この辺の本能的な直感が影響していると思います。
2.企業内診断士の方が優秀に見える要因
①組織に所属しているか否かの影響
本能的に、相手を判断するときに、相手のバック、どの組織に所属しているのかは重要な要素になります。
弱そうな相手だと思って邪険に扱ったら、後でとんでもないことになるからです。
例えば、子供の世界でも、有力者の子息とか、怖い先輩の弟となれば一目置かれます。
同じように、診断士の世界でも、企業内診断士は、有名企業所属の人が多く、その名刺を見ただけで、無意識に優秀に見えてしまいます。
有名企業に勤めているだけでステータスにこだわる人達からは一目置かれます。
ところが、「独立組」の新人には、なんの看板もありません。
凝りに凝って作った名刺に必死さを感じさせられたりして、弱い立場を強調してしまいます。
②本人からにじみ出るオーラ
アメリカ大統領選などで、大統領に成れた人と落選候補を、数年後に比較すると、大統領は、より貫禄があり立派になり、落選した候補は、老けてしぼんで見えるそうです。
ゴリラの群れのボスは、シルバーバックといって、背中が白く、ごつい体なり、見るからに立派になります。
人間も同じように、自分の地位やステータスに応じて、ホルモン等の分泌が変わり、実際に見た目が変わっていく現象が起こります。
個人的な経験として、男性若年者の場合、優越感とステータスの喜びに酔っている人は、目を逸らさず真正面を見据える感じで、かつ瞳孔が開きぎみになると思います。 周りに畏怖とカリスマを感じさせます。
社長御曹司とか世襲の若手政治家などのイメージがそれに近いと思います。
※女性の場合は、好きな異性をみると同様の現象が起こるため、コンタクトなどで黒目を大きくみせると魅力的に見えるようです。
事例としては、昔、仕事で東大に出入りしていたことがありますが、学生の方々が自信満々で瞳孔が開き気味なのが、印象的でした。
また、若手のキャリア官僚も、ステータスに浸りきって瞳孔が開いている感じの人がいます。
若くして、結構な権力と部下も持ちますから、そんな感じになります。
企業内診断士は、社会的ステータスがあり、業務でも取引業者や部下に威張っている人も多いので、所属のステータスが、本人の中で一体になって、ホルモンに影響を与え、実際に肉体上の変化が起こっていると推定しています。
ステータスがあり生活に不安も少なく、他の診断士のご機嫌を伺う必要もなく、堂々としているので、優秀に見えます。
一方、「独立組」ですが、所属のステータスを喪失したばかりで、しかも業務や生活上の収入等の不安も抱えています。さらに、誰か仕事をくれるような親切な先輩を見つけるため、多少卑屈になってもいます。
つまり、独立により立場が弱い状態が続いており、それが見た目への影響も与えています。
そこで、独立組が、期限切れの元の所属のステータスを誇ったり、あるいは自分を大きく見せようとすると痛々しさが伴ってしまいます。
※50代以上の人は、何年たっても、元の所属のステータス感が抜けない感じの人が多いです。
③独立組・イコール・社内の負け組という決めつけ
診断士業界は、企業内診断士が多数派で、さらに定年まで勤め上げた60代がボリュームゾーンです。
逆に30、40代の若手で独立した人は、ごく少数派になります。
日本社会では、大企業ほど「中途退職者は負け組」と決めつけが激しいです。
ドロップアウトには厳しい社会です。
「管理職経験もないやつに、コンサルができるわけない」とか、どれほど前向きに中途退職しても「どうせ社内で使いものならなかったのだろう」的なこと言われてしまいます。
確かに独立する人の中には、組織に嫌気がさして、現実逃避的な理由で独立している人も多いことも事実です。
※参考コラム:「結構多いのんびり系診断士」
そういう私も、独立は、100%前向きな理由ではないです。
理由はともあれ、自分でリスクを負って挑戦している人に、そうした目線が向けられる現実があります。
3.独立組はどう考えたらよいのか
本当は、実際に企業内と独立組のどちらが優秀かということの結論は存在しません。どちらにも優秀な人も、そうでない人もいます。
ただ、先に挙げたような人間の認知によって、企業内診断士が優秀に見える現象が起こる現実を受け入れましょう。
本能なのだから、こればっかりは、どうしようもありません。
だから、独立組は、この状況を如何に自分の肥やしにするのかを考えるべきでしょう。
具体的には
①素の自分を受け入れる機会
私の場合、数年間無職で診断士挑戦した経験もありますが、無職時代は、周りから挫折した人間として扱われたものです。
でも会社の看板等のステータスを喪失した状態、素の自分の状態、これが「本当の自分」だと思います。
世の中、この状態に耐性がない人が多いことに驚きます。高学歴エリートほどそうです。
本当のところ、自分に自信がないのかもしれません。
しかし、退きの戦術ができない人は、最後の「最強カード」が手元にないのと同じです。
能力のある人が、この状態が普通になれば「あとは健康さえあれば何も怖くない」状態になれます。何でも挑戦できる最強のカードを手に入れられます。
また、コンサルタントやビジネスで一番重要な能力は、現状・事実認識のための「観察力」だと思っています。
そのためには利害等から隔離した中立・独立的な視点が必要になります。
見栄やステータス、希望的観測が観察力を見誤らせる元凶です。
30代、40代くらいで何の肩書もない状況を経験することは、人生の中で有用な経験になります。
見栄とかステータスから解放されるきっかけになり、今まで、見えないものが見えてきます。
新卒から定年退職まで勤め上げて、退職後も一生、元の所属のステータスを引きずっている人を見ていると、能力面に?が付きますし、人生で損をしている感じがしてしまいます。
②人間勉強の機会
子供の頃から、受験や部活や、社内での競争社会で生きてきた人達は、大抵、競争心が激しいです。
個人的には、たまに出くわす競争意識を燃やしてくる人が苦手でした。
こっちが何もしていないのに、勝手に屈辱を感じたり勝ち誇ったりされたりして「俺は好きにやるから、おまえも好きにやれよ」といつも思っていました。
今でも、たまに、初対面の人と話している時に、自分との優劣を比較しているような感触を受ける時があります。
また、大部分の人間が、本能的に表面的な情報で人間を判断し、対応してきます。
例えば、独立すると、かつての同僚や友人関係から、挫折したと決めつけられてマウンティングされたり、態度を変える人も、離れる人、逆に近づいてくる人もいるでしょう。
参考コラム:「人の不幸は蜜の味 建設コンサル業界編」(姉妹サイトへ移動します)
診断士業界の中でも、肩書を失った新人を青二才扱いして馬鹿にしてくる人、甘言で近づいてくる人などいろいろあります。
人間のそうした側面を見るためには、実際にその立場に立ってみることが一番です。
弱い立場にならないと経験できないことです。
こういうのは人間勉強の良い機会であり、つまらないことに、一喜一憂せずに、相手の希望的観測を読んで、それに応じた振る舞いをしてあげるとか、楽しみましょう。
4.優秀に見せるには
独立して地道に実績を積んでいけば、それなりに「迫力」が染み出てくるものだとは思いますが、短期的に所属のステータスがない状態で、優秀そうに見せるには、いくつか方法があります。
(1)表面的に取り繕う方法
優秀かどうかは、結局、人間は表面的な情報でしか相手を見ていません。
表面的情報とは、以下のようなものです。
①肉体的要因:その人の顔色、表情、タフさ、声の質、態度など ②属人的要因:資格や能力、実績、儲かっているのかなど ③所属要因 :所属組織とその地位
上記①~③要素を、表面的に取り繕うだけでもだいぶいけます。
例えば、
①肉体要因ですが、健康的な生活、筋トレで体を大きくし、さらに武道・格闘技などもやるとよいです。
また、セミナー系の人は、1年くらいで妙に迫力が出てくるので、人前で話す訓練も効果的です。
※最近は、お笑い芸人やアナウンサー系のスクールが自己啓発に人気らしいですね。
あと、服装や礼儀・マナー等も重要です。(とリュックサック愛用者が言っています)
②属人的要因ですが、名刺に難関資格を並べる、SNSで「やってる感」を出す。
いろんな公的機関に専門家登録するなどです。(一般人には信用になります)
③所属要因ですが、法人化して、株式会社、代表取締役社長の肩書を持つだけで、表面的には青年実業家です。
実態は、自分一人で、シェアオフィスでも、外から見たら分かりません。
あと、ホームページは作りましょう。
(2)情報発信等
現代は、評価経済社会であり、各個人の発している情報の人気や評価が、そのまま価値に直結する社会になりつつあります。
実際に「特定の個人」を調べる時に、まず「名前」で検索してみる人も多いと思います。
その時に、独自のメディアを持ち情報発信ができる人は、その人気に応じたパワーを持つことができます。
その結果、すごそうに見えるという現象が起こります。
これは、個人の無形資産になりますので、長期的に取り組みましょう。
おわりに
このコラムを書いたきっかけは、世の中に周りとの相対的優劣を気にする人があまりにも多いことがきっかけです。
優越感に浸ることは気持ちがよいことではありますが、ステータスにこだわると、自らの選択肢を狭め、人生の自由度や広がりが束縛されてしまいます。
人生の幸福の尺度が、「自由・やりたいことができる」に重きを置く人は、まず、ステータスの束縛から自由になるべきだと思います。
そのために、実際に弱い立場になり、レッテルづけされた時に「相手が気持ちよくなってくれるなら、それで結構」という心構えと共に、あまり過小評価されすぎるとビジネス上の実害が出ることもありますので、ある程度は、表面的に取り繕うことも必要かと思います。
※参考コラム:「経営コンサルタントは見た目が重要?」
そして、みなさん、やりたいことを、やりたいようにやって好きに暮らせるようになればよいですね。
最後に補足ですが、誰もが「優秀に見られたい」という願望はあるとは思いますが、ビジネスの種類にもよりますが、「尊敬や畏怖」されるような存在になると、マイナス面やリスクもあるのではないかと思っています。
なぜなら、周囲の評価が高過ぎると、祀り上げられて現実世界が見えなくなるからです。
個人的には、周囲から多少舐められて、なんでも言ってもらえる状態の方が健全ではないかと思っています。
ご参考になれば幸いです。
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