コンサルタントとして独立する人のための書籍やセミナーなどでは、「無償作業は絶対にするな」と説く人が多くいます。一方、中小企業診断士の人では、「まずは信頼を獲得するために積極的に無償でも業務をやるべき」と述べている人も多いと思います。
中小企業診断士として独立を考えた場合、「無償作業は絶対にやるな派」と「信頼獲得のために積極的に無償作業しよう派」の両方の意見に晒されるわけですが、正直、判断がつかないと思います。
無償作業をすべきかどうかについて、個人的な考察を述べてみようと思います。
(※この記事は、2020年3月(新型コロナパンデミック)以前に書き溜めたものです。)
「無償作業は絶対にやるな派」言い分
客商売をしている大抵の人は、無茶な要求をしてくる顧客に遭遇したことがあると思います。
クレームをつけて騒ぐ、値引き、無料サービスの要求、従属的な関係を要求してくるなどです。
こうした顧客にまともに関わってしまうと、時間もモチベーションも、お金も浪費してしまいます。
多数の顧客を相手にする物販のようなビジネスであれば、たまに、そういう客がいてもなんとかなるのかもしれません。
しかし、コンサルタント業務は、顧客との協同作業であり、コンサルタントは多くの時間を拘束されます。
さらに、事前に、仕様や業務の範囲を明確に規定することは困難です。
この時に顧客とwin-winでフラットな関係が築けていないと、一方的に無償サービスを押し付けられてしまいがちになります。
コンサルタントをやる前提として、顧客とは、お互いを尊重しフラットでwin-winの関係であること、そういう顧客に価値を提供して、報酬を受け取ること、ここに集中することが重要だと思っています。
世の中ギブ&テイクが重要と言いますが、現実社会にはテイカーが多く存在します。
実際に、大企業と取引しても、「お金を出している側が偉い」、「支払いを如何にケチるか」と考えている担当者がいます。
現実には、供給側(受注側)優位なケースも多いのですが、顧客側からサービス提供を申し込んできているのに、こちらを業者扱いして横柄な態度で「まずは挨拶に来い」などと要求したり、さらに、値引きを要求してきたりする人もいます。
こうした要求に応じてしまったことがありますが、その場合、追加で値引きを要求されるようになってしまいました。さらに支払い段階になって、後出し的に一生懸命、値切ってくるようになってしまいます。
テイカーのこうした要求に応じてしまうと、そこが基準となってキリがないことを痛感しました。
現在は、無償サービスや値引き等を要求する顧客には、顧客にとって長期的な利益にならないことを理を尽くして説明して、無償サービス、値引き、その他従属的な関係の要求には応じていません。
それで、納得していただけない顧客とは、どれほど有名企業であっても取引しないことにしています。
おかげで、不毛な浪費をする局面は、極端に減り、顧客への価値を提供することに全精力を集中することができるようになりました。いいこと尽くめです。
双方フラットでwin-winの関係の顧客とのみ取引するのだから、当然ですね。
独立3年目くらいから、直接受注を目指した時に決めたことが、「プッシュ営業はしない」、「無料サービスはしない」という二点でした。
理由は、プッシュ営業をしてしまうと、顧客と従属的な関係になってしまいます。弱い立場で無料サービスを要求されると応じてしまい、ずるずると不毛な世界にはまってしまうことを避けるためです。
直接受注を目指し始めた当時、いくつもの公的支援機関の専門家登録も行っており、自身のホームページにも、いくつもの専門家登録していることを明記していました。
すると、直接業務依頼をしてくる顧客の中には、「公的支援機関を通じての支援をお願いします」という顧客もいました。それを断ると、「じゃあいいです」という感じで、お金を払うつもりがない顧客が大部分です。
当時の話ですが、公的支援機関も案件持ち込みができるところと、そうでないところがあって、さらに、公的支援を受けるためには、支援機関の職員が企業を訪問し、専門家を選定し、計画書を作り、回数と時間、報酬もあらかじめ決まっていて、毎回報告書を書いて、最終報告書も書いて(それらにいちいち決済のハンコや注文がついて)という感じで、公共事業として税を使うだから仕方がないとは思うのですが、とにかく制約が多かったのです。
「売上が何億もあるのにコンサルに報酬を払うつもりはない企業に、制約の大きな無料コンサルを提供しお役所から報酬をいただく」という感じで、冒頭で述べた「フラットでwin-winの関係にある顧客に価値を提供して、報酬を受け取ること」という原則とは、大きく乖離していて、これでは自分の価値は出せないと感じていました。
公的支援機関には営業活動等はほとんど何もしていなかったのですが、3年目くらいから、なぜか公的支援機関から引き合いが結構来るようになっていましたが、一度、体を壊したこともあり、5年目に思い切って公的支援機関関連業務からは一切手を引きました。ついでに、民間コンサル会社のフリーランスからも手を引くという荒業をやってみました。
「ワイルドだろ~」って感じですが、不思議に確信があり自然な選択でした。
一旦、収入はほぼゼロになりました。しかし、持ち時間のすべてを、顧客に直接、自分の価値が出せることに集中できるようになり、結局は、収入は増え、逆に労働時間は大きく減りました。
まあ、3年目くらいから仕込んでいて、5年目に結果が出たので現実はギリギリセーフだったのかもしれませんが、自分で考えた仮説を実証するという感じで、こういうのが面白いところだと思います。
もっと早く動けばよかったな~と後悔もありますが、試行錯誤フェーズを経てようやくたどり着いた結論でもあり、楽しかったからまあいいやって感じです。
20代から主体的に動いている起業家の人達って本当にすごいですね。自分が20代の頃は仕事と酒ばかりでした。
何が言いたいかというと、ちゃんとしたビジネス、フラットでwin-winの関係の顧客に、価値を提供して報酬を受け取るようなビジネスをやろうと思ったら、無償サービスはやらない方がよいでしょう。
無償サービスというは、無料大好きテイカーばかりが集まってきます。無料サービスで、どれほどの価値を提供しても顧客は無料相応の価値しか感じてくれません。
結果、不毛な活動に浪費してしまいます。
ところが、無償作業に妥当性のある世界もあります。
中小企業診断士に「信頼獲得のために積極的に無償作業しよう派」が多いわけ
中小企業診断士の本やブログなどでは、独立後に、先輩や師匠の手伝いや紹介から始まって、次々に仕事を貰って大忙しというような話が多いと思います。
そうした中で語られる言葉の中で、多いのは、「世の中はギブ&テイク、テイクが欲しかったら先ずはギブから始めよう」、「まずは、顔を知ってもらうことが大切、無償でも積極的に仕事をしよう」、「診断士の仕事はほとんどが紹介です。無償でも一生懸命仕事をして信頼を獲得すべき」みたいな感じです。
現実の独立している診断士は、こうやって成功?している人が多数派なんだと思います。
診断士の統計でも、仕事依頼のきっかけの大部分が「公的支援機関や同業者からの紹介」であることから人的ネットワークと信頼の構築が最も重要になると思います。
そのため、「まずはギブから」「積極的に無償作業をしよう」というのは妥当性があるわけです。
こうして成功した診断士の先生も、支援先の企業に対しては「まずはギブから」「積極的に顧客に無料サービスをしよう」とは助言しないでしょう。
先ほど、顧客に価値を与えて報酬を受け取るビジネスをしようと思ったら、「無償サービスはダメ」なのに、診断士の世界では「無償でも積極的に仕事をしよう」なのか、そこには、理由があります。
公的支援と言うのは、公共事業になります。公共事業の調達先の選定方式は、「入札」と「随意契約」に分かれますが、公的支援業務は、ほとんどが「随意契約」です。つまり、誰に仕事を出すかは、支援機関の随意で決められます。
「税金使っているのに、不公平だろ!」と憤慨する人もいるかもしれませんが、事業金額の小さいものは随意契約でやるしかないのです。報酬数万の診断業務の専門家を選ぶのに入札していたら、そのための支援機関の職員が動くコストが何百万も掛かってしまいます。
派遣する人を選定するメカニズムですが、公的支援機関の職員は、公務員ですから異動もあり、その道に詳しくない場合もあります。またお役人は、減点主義なので、トラブルを起こさず、そつなくこなしてくれる人を選びたいのです。
そこで、誰に仕事を出すか、地域の診断士グループに相談したり、一存することもありますし、コーディネーターみたいな支援機関に半常駐している診断士が決めていたり、それが制度になっているようなところもあります。
そのため、特定の診断士やグループが誰に仕事を出すのか影響力や権限を持つことになります。
実際に派遣する診断士を選定する時は、問題なくこなしてくれそうな人を選びます。また、経歴が素晴らしくてもよく知らない人には怖くて出せません。
だからたくさんの支援機関に専門家登録しても、それだけで仕事が来ることは稀です。
派遣する診断士を選定する人が、完全な人格者で最適な人選をしていると信じたいところですが、現実はどうでしょうか?
それぞれ自分自身も食べていかなければなりません。人間ですから好き嫌いもあります。もう一つ、その権限は他の診断士も欲しがりますので他のグループとの競争があります。
そうなると、仲間内で、仕事を廻しあうような排他的な利益共同体に自然になってしまうでしょう。
よって、本人達は、「業務に最適な信頼できる人物を選んでいる(仲間内から)」で、外から見れば「仲間内のお手盛りだろ!」となってしまいます。
仮に、有名な戦略コンサル出身で、中小ベンチャー支援の実績のある人物でも、才気走った生意気な態度で、無償サービスにも応じなかったら声も掛からないでしょう。
要はこのゲームの必勝法は、発注権限のあるグループの仲間内になることです。
仲間内に入るためには、無償奉仕は重要になってくるでしょう。
そういう参入障壁があります。不公平な話ですが憤慨してもどうにもなりません。
単独で公的支援に食い込む方法は、あります。
公募案件にしつこく応募し続ける。ニッチな分野の専門家になる。企業に直接アプローチして案件持ち込みができる支援機関を活用するなどですが、なかなか困難も多いです。特に持ち込みは、支援機関やそこをナワバリとする診断士は良い顔をしません。
素直にどこかのグループに入る方が成功確率は高いと思います。
まとめ
無償奉仕をするのか、しないのか、どちらが正しいということはありません。
「フラットでwin-winの関係の顧客に、価値を提供して報酬を受け取るようなビジネス」と「お役人や先輩に選定してもらって、お金を払う気のない顧客に無料コンサルを提供し、公的機関(税金)から報酬を受け取るビジネス」という、本質的なゲームのルールの違いを認識して、自分が目指すビジネスの種類によって、対応を決めていけばよいでしょう。
どちらもコンサルタントと名乗って経営診断をしていますが、ビジネスモデルは根本的に違うと思います。
そのため、将来的に両方のゲームを両立させて、ビジネスをやることは難しいと考えておいた方がよいです。
先にも述べた通り、直接受注したのに、「無料でやって」という顧客が来てしまうなど混乱を招きます。
下積みをしたい人は、間違っても、経営コンサル会社や、企業に「無償でよいから使ってください」とアプローチしてはいけません。
価値を提供して報酬を受けとるビジネスをしている人からみると「無償でよいから使ってください」という人は、「僕は価値ゼロです」と言っているのと同じです。
さらに「無料ほど怖いものはない」という言葉があるように、将来のテイクを求めてギブの押し売りしてくる気味の悪い人物だと思うでしょう。
そんな人を喜んで使う会社があったら、価値のないものをあるように見せかけて売っている商売の可能性が大です。
例えコンサル業は未経験であっても、中小企業診断士であり会社での経験もあるのですから、しっかり顧客価値を研究して自分が出せる価値を作って、価値に見合った報酬をいただくことをセットとして、相手にアプローチする方がよいです。
それが、本当のギブ&テイク、ビジネスレベルの交渉だと思うのですが、皆さんはどう思いますか?
私の場合は、資格を並べて「日3万で使って下さい。気に入らなかったらいつでも切ってください」という稚拙なアプローチをしましたが、それでも何社か相手にしてもらえました。もし、ちゃんと価値を作ってからアプローチすれば成功確率は上がったでしょう。例えば、独自のセミナーメニューとか、コンサルメニュー、仕事の受注力(業界認知度)などです。
次に、「無償サービスに妥当性のある世界」で頑張ろうという人、このゲームに参加しようと思ったら、ギブをする相手を見極めることが重要です。
そうしないと、「いいようにこき使われて終わり」ということになりかねません。
また、適性にも左右されると思います。私みたいに組織が嫌で会社を辞めた人には難しいんじゃないでしょうか。
例えそれで食えるようになっても、もやもや感が残ります。
適性をクリアできて、ある程度の基礎能力があれば、成功(食えるという意味)確率は、意外と高いと思います。
結構、人の出入りや栄枯盛衰は激しく、中高年も多いので5年もすると、人がかなり入れ替わりますので、チャンスはあります。
また、中小企業診断士のグループでも、ちゃんと報酬を払って、win-winでやっているグループもあります。
過去に、仕事を紹介してくれる先輩がいて、その人は、どんな業務でもきっちり報酬の1/3のバックマージンを求めて来ました。その時、周りの診断士の人から陰で「あの人はせこい」とか、言われていました。
まあ、日単価3万位の公的支援業務の紹介に対してもバックを求めるのは、さすがにどうかと思うところもありますが 個人的には、こういう人は、とてもやり易いです。
せっかく独立するのなら、まずは、いろいろやってみて、自分の活動領域を決めていけばよいのではないでしょうか?
そんなときの参考になれば幸いです。