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秒速で1000万円稼ぐ中小企業診断士

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 中小企業診断士で、3000万稼ぐみたいな本を出したり、高収入をセミナー等で公言している人は、特化した独自のコンサルメニューがあったり、企業化したりしています。認知度もあって顧客から直接受注しているような話が多いと思います。
 当サイトの他のコラムで私自身がよく、ビジネスとは顧客に価値を提供して報酬をいただくものという話をしていますが、公に名乗っている人は、大体が正に王道と言った感じです。
※公に高収入をアピールしている人は、何らかのマーケティング的な意図も含んでいる点は留意しておいた方がよいでしょう。

 士業向け高収入達成セミナーみたいなものも、大体が、独自メニュー構築とコンテンツの情報発信みたいな指導内容で、それを実践的に具体化したものが多いと思います。自分自身が受けたことないのでわかりませんが多分そうです。
 このやり方は、長期的にじっくり取り組める人には、一番お勧めなやり方で、ニッチな分野で認知度が獲得できれば、後はそれだけで食えます。最初は大変でも後になるほど楽です。
 しかし、実際にそれをやるとなると、収益を犠牲にして、投資的な作業をする必要もあり、必ず成功する見込みもないことに、多くの時間を割くのは難しく、多くの人は断念してしまいます。
 
 一方で、ホームページもなく、公的支援中心で中小企業診断士業をしていて、羽振りの良い人もいます。
 日単価2、3万の活動で、大して稼げないと思うのですが、実際に羽振りがよさそうですし、ボソッとあり得ない年収を教えてくれる人もいます。
 実は、資産家の息子だったという話もありますが、一部本当に自分で稼いでいる人もいます。
 また、ベテランの人で、過去最高年収で5千万稼いだとか言っている方もいました。

 「さては、専門家派遣や窓口相談に来た人を経営コンサルタントの顧客として直接受注しているのか?」と考える人がいると思います。
 答えはブーです。(一部は当たっています)

 公的支援機関による専門家派遣等は、相談する中小企業側にとって無料もしくは「ほぼ無料」です。
 公的支援機関を通せば無料で受けられるものを、その後で、高単価で自腹を切って発注するケースはレアです。
 自分自身に置き換えて考えてください。今までずっと無料だったものを、ある時から10万円ですと言われて、払いますか? しかも類似品は、まだ無料なのです。
 必要な価値を得るために自腹でお金を払う覚悟のある顧客は、最初から無料サービスを要求しないもので、無料に強烈に反応する層とは、客層が全く違うのです。
 この点が、公的支援で活動してきた人が、途中から直接受注を目指しても、移行できない最大の理由です。
 「絶対不可能」と言い切る人もいます。
 
 では、公的支援をやっていて、高収入をどうやって稼ぐのでしょうか。

行政による中小企業対策(経営指導、補助金、助成金、その他すべて)は全国で、どのくらいやっていると思いますか?

中小企業対策費は、経済産業省管轄(補正含み)だけで実績的には年間2000~3000億円くらいです。それとは別に各省庁(財務省、厚生労働省、国交省、農水省、外務省も)もそれぞれやっていますし、さらに全国の地方自治体、金融機関なども独自の支援をやっているわけですね。

中小企業向けという狭義でみても、全部併せれば相当なものでしょう。さらに大企業も含めた、助成金や補助金となると、もっとすごいことになります。

 さて、その内、専門家派遣等での診断士の分ですが、資格保有者3万人、独立している人1万、実際に稼働している人5,000人、公的支援関連から平均500万の収入を得ているとして、250億円くらいです。専門家派遣等の真水の部分で最大限の見積もりです。中小企業支援予算全体の数パーセントで、残りは別の形で企業へ流れています。
 
 そうした中小企業支援政策は、日本で一番勉強できた人達が集まってステータスを極めて、決して自分でリスクを負わない世界の机上で、一生懸命、社会のためになることを考えて作られています。
 そうして一度作られた政策と確保された予算は、ちゃんと執行しないといけません。ようは使ってしまわないといけないのです。実際に執行する現場では、ただ実行するのみです。
 行政っていうのは、「基本的には上位下達」、そういう世界です。
 
 そこで、政策的な意図と、執行する現場でギャップが生じてしまうこと、執行が難しい場合もあり得ます。
 年度末も迫っているのに、補正予算がドバっとついたりすることもあるでしょう。

 中小企業診断士というのは、本来、行政の行う中小企業支援対策の経営指導などを行うための資格です。
 補助金、助成金は場合によっては、一社で数千万単位の金額になりますが、公金を投入するのですから、当然、補助金を出すための要件、経営計画や、実行計画、その後の報告等が求められます。かなりの難易度があり手が出せない企業もあるでしょう。

 執行したい行政と、支援が欲しい企業に対して、マッチングや、経営面での指導も業務としてニーズはあるわけです。

 ただし、企業支援には功罪があります。


 私は独立当初、公的機関の運営する創業支援施設(コワーキングスペース)に入所していたことがあります。もちろん、創業支援する側でなく、創業支援される側(創業した側)として入っていました。
入所者の方々は、大手企業をリタイヤした方も多く、プライド高く万能感に溢れていて、「志」、「社会を変える」創業の大義名分は素晴らしいものの、具体的な行動はしない、できない人もかなりいました。
リタイヤ後のお記念独立って感じです。

インキュベーションマネージャーが一生懸命考えて、企画をやっていました。無料経営相談、無料専門家派遣、無料セミナー等がたくさんありました。その中で、入所者の皆さんが興味を強く示すのは、補助金・助成金の類のセミナーでした。
 いろんな情報も回ってきます。「今年も○○補助金やるらしいよ」、「よ~し今年も100万貰おう!」みたいな会話が周囲でなされています。
 当時は「そんなことに情熱燃やさずに、ちゃんとビジネスやろうよ」と呆れていましたが、熱狂してしまう人達がいます。
 無料は当たり前、さらにお金が貰える、場合によっては数千万貰える、となってくるともう、本業の経営なんかより、そちらが本業になってしまう企業もあるでしょう。
 「果たして日本以外でもこういう中小企業支援政策があるのだろうか?」と疑問に思うことがあります。

 話を整理すると、公的機関による中小企業対策という天からの恵みの雨が降っていて、それらは、細かい小川に分かれて流れています。日照りの年もあれば、集中豪雨も起こります。
 中小企業診断士は、中小企業支援対策の現場に接して暮らしています。
 また、無料支援や、役所からお金が貰えるに反応する企業を見つけるのは容易です。

 そこに時合いが加わります。集中豪雨で洪水が起こっちゃうんですね。○○補助金バブルみたいな話です。
 普段は、専門家派遣等、日単価2,3万の仕事しながら診断士ネットワークでアンテナを立てていて、景気対策等の大型補正や、新たな支援策と予算が付けば、いち早く、情報をキャッチし、スピード勝負で一気に稼ぐ、そういう感じかと思います。

 こういうやり方で、高収入を確保している人は、セミナー等で公言したりするようなことはなく表にはあまり出て来ません。何も得することないからです。
 ただ、高収入を達成したことを自慢したい心理はあります。そこで、診断士ネットワークの中での飲み会など、断片的にポロポロと漏れたりします。
 経営コンサルタントとして稼いでいると言っている人も、本当の稼ぎ処は別の場合も多いでしょう。
 独立したら診断士ネットワークが重要というのはこういう情報を入手する意味も大きいと思います。

高度なコンサル技法とか、最新マーケティング理論とかそういうものは必要ないです。
直接受注のための独自メニューとコンテンツの情報発信なんてのも必要ないでしょう。

投機の世界などで、反射神経で稼ぐ、情報をいち早く入手しスピード勝負のようなやり方です。
 「秒速で1000万円を稼ぐ診断士」ってやつですね。
 
 私自身は、あまり興味を覚えないです。
 (訂正:独立当初の食えない時期に、検討したことあります。やりませんでしたが)

 こういう仕事は、天からの恵の雨が降ってくる仕組みがある以上、誰かがやることになると思います。
 このコラムを読んでいて、興味を持った人に言っておきたいことは、「こういう仕事をやるとしたら、中小企業支援政策の意図を理解し、本当に必要な企業に対して、マッチングや補助金等の獲得、獲得後の実行のための経営支援をすれば社会的意義は高いでしょう。しかし金儲けだけを追求したら、ただのブローカーですよ」ということです。
 是非、みんなが払った税金(公金)が有用に使われるように、社会貢献してください。