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中小企業診断士とヒヨコ食いについて

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 中小企業診断士試験に合格したばかりの新人や独立したばかりの人を、食い物にするようなビジネスを、ヒヨコ食いと言うらしいです。
 私も独立してから数年は、あちこち何でもやっており、その類のことは一通り経験しています。今後、独立する人の参考になると思うので、個人的な経験と考察を書いてみたいと思います。

その1.プロコン塾

 独立してすぐにプロコン塾に入りました。内容は、毎月一回×1年(12か月)=12回くらいで、料金は10万位だった思います。 時間は土曜に、朝9時~17時くらいで、その後の飲み会もセットでした。
 講師は大体が独立している人、生徒の方は10数名で内、独立予定者は3名くらいでした。
当時の内容は、コンサル能力の基礎的なことが多く、どうやったら仕事が取れるかとか、実際に仕事を紹介するような実利的な話はあまりなかったように記憶しています。
 しかし、プロコン塾は、決してヒヨコ食いではないと思います。
 金額的には、1回6時間以上もやって金額1万円程度ですから、セミナーとしては割安です。また、飲み会等で、独立している人の話を聞けて、情報収集になります。また、新人でみんなウキウキしていて楽しかったです。
 個人的には行ってよかったと思っています。
 主催者側もこの程度の金額ではビジネスにはなりません。変な意図は持っていないと思います。
 まあ、企業内診断士がプロコン塾を受けて、「10万も払ったのに独立できないじゃないか!」という人はいるかもしれません。
 こうしたセミナー系の勧誘の中で、「受講したら仕事が来るよ」みたいな話もありますが、そのセミナーで知識を増やすことを目的とすべきで、仕事の紹介は期待しない方がよいです。
 実際に独立している人の話を聞いたり、知り合いになったり、断片的でも生きた情報を収集できる点は貴重です。
 個人的には、独立する人は、良さそうなもの選んでを受けてみればよいと思います。
 あくまで個人的な感想なので、自己責任で判断してください。

その2.診断士グループA

 独立当初、全く仕事がないときに勧められて某地区の診断士グループに入会したことがあります。
 面接が必要というので、待ち合わせの喫茶店に行き、その会の会長と副会長の面接を受けました。70代半ば以上も過ぎた方でしたが、第一声が、「○○です。私は元△△社(有名企業)の部長でした。」と言われて、「もう20年近く昔の話だよな~」と内心思ったことを覚えています。
 そこで、説明を受けましたが、その地域の役所、商工会の窓口相談や、地域金融機関の専門家派遣などは、そのグループに入っていないと、やれないんだそうです。ナワバリってあるんですね(今は違うかもしれません)。
 そこで、年間これだけやっているんだと、専門家派遣実績を見せてもらいましたが、派遣されている専門家は5名くらいの幹部がほとんど占めていて、同じ名前がいくつも並んでいました。
 百名近くもいるグループで、専門家派遣は幹部のお手盛りという感じです。
 「窓口相談やってみたいのですが?」と私が聞くと、「まだ未熟なんだからもっと修行を積んでから」と言われ、順番なので、「8年待ち?」とかそんな話だったような記憶があります。

 せっかく紹介されて断るのも紹介者に悪いと思い、とりあえず入会しました。入会金と年会費それぞれ一万円くらいだったと思います。
 そして、総会というものに行きました。会員の8割以上は60代でした。
 そこで、30代くらいの診断士(女性)と話したのですが、私より数か月前に入会し、もう窓口相談の仕事をやっているとのことでした(合格年は同じの人です)。
 8年待ちと聞いていたような気がしましたが、どういうことでしょうか?

 入会後、会員の統計データを見せてもらったのですが、平均収入300万以下が大部分だったと思います。中小企業診断士の平均年収800万というどこかのデータとあまりに違う数値に衝撃を受けました。

 しばらくして、商店街支援5万円という仕事を紹介されました。ところが、5万円というのは、商店街支援一式全部終わるまでで5万円で、新人二人で回数無制限、作業量無制限なのだそうです。
 ほぼ無償です。これが修行ってやつですか。
 こちらは家族を養っていかないといけないので、辞退しました。
 即、退会も決意し、角が立たないように、数か月間の間をおいて退会しました。
 ここで学んだことは、地域の公的支援機関の窓口や専門家派遣を、診断士のグループが独占できて、ナワバリがあること、誰を派遣できるかは、グループ幹部が決めること、つまり、やろうと思えば、会員を集めて、会費を取り、報酬のよい仕事は幹部でお手盛り、ボランティア的な仕事は、新人、若手に振るということができるわけです。
まあ、幹部であっても500万も稼げないと思いますが、業界の裏を見た気分でした。

 同じような商法?を、みなさん目論むらしく、あちこちでそういうグループが出来てはつぶれています。
 新人の人は、そういうグループに誘われることも多いと思います。

その3.診断士グループB

 独立3年目くらいですが、ある先輩から、幹部になってくれと頼まれてグループに入ったことがあります。
 3年目の時は、私自身は、もう周りも見えて独自路線で前進していたのです。例の商法は知っていたので、こうした話はすべて断っていたのですが、どうしてもということで、しぶしぶ入りまし
 幹部は、私以外は全員60代前後の人でした。
 
 まず、会の規約をみて驚いたのは、他の幹部は月々の定額報酬があり(1万程度でしたが)、私だけ「報酬ゼロ」になっていたことです。それを一切私には説明せず、向こうは黙っているのです。
 「やっぱり、またこれかよ~」という感じでした。気付いても黙っていましたが、どんどん付け入ってくる感じで先が思いやられます。
 案の定、会のホームページを作れとか、私の会社のホームページやブログで会の宣伝をしろとか、コンテンツを書けとか、私に対して無償作業を次々に要求してきて閉口しました。
 私が苦労して認知を上げているために作っている業界ブログ等にただ乗りしようとする態度に呆れました。
 そういう義理はないので、無料ホームページだけは作ってあげました。「中のコンテンツは自分で書いてください」とあとは拒否しました。


個人の経験で、こうしたグループに関わって驚いたことは何もできない人が多いことです。まず、手が動きません。メニューもコンテンツも作れません、具体的な売り物がないのに、一生懸命プッシュ営業で、知り合い関係を廻ったりしています。
「俺は元世界の○○社」自己評価だけは天より高く、会話内容も過去の経歴自慢だけ、こちらの提案は経験論で全否定、とてもビジネスをやれるレベルではないと感じました。

 さて、年度末、その会の決算ですが、「大赤字です。赤字分は自腹で補填しました」と会長がいうのです。会員から入会金や会費を集めて無償作業させておいて赤字とはこれ如何に? ですが、それもそのはず、会長が自分の事務所家賃や諸経費、アルバイト代の半分を会の経費に乗せているのです。
 そして「みなさん報酬はゼロです。でもこれは公益組織だから文句は言わないでね」「私(会長)が自腹補填して一番損しているのです!」となりました。
 例の商法の神髄を見た気がしました。でも無茶し過ぎでしょう。
 やはりその後、他の幹部が次々に抜けて「解散」となりました。
 
 例の商法については、大企業で年功序列の終身雇用の世界で生きてきた人は、身に沁みついた性みたいなもので、もうこれしか思い浮かばない人が多いようです。
 若い頃から、共同利益を持つ人が集まりグループ(派閥)を作り、グループ内に序列(先輩後輩)を作り、他の派閥を攻撃し、獲得利益は序列に従って配分するというような形で活動してきたのかもしれません。
 人間が数百万年続けてきた本能的な行動であると言えますが、いい年したおじさんが、こうした本能に基づいた行動を繰り広げるのを見るのは個人的には、人間観察として興味を覚えます。

 ご本人は、「若造は従うべき、俺もそうしてきた」と当たり前に考えていて、まったく罪悪感はないのです。

 こうした商法の構造は、公的支援機関という細々と水の出る蛇口があって、そこに多くの診断士が群がっています。
そして、大体の蛇口は特定のグループが牛耳っていて近づけません。
 そのグループに入って、先輩に尽くせば、たまにコップ一杯の水をくれるのです。
 中小企業診断士の中には、手ぶらで行けば、一日いくらの仕事が貰えると思っている人が結構いて、日当一万以下でもこうした仕事には人が集まります。
 需給で言えば、公的機関の仕事量より、仕事が欲しい診断士の方が圧倒的に多いのです。
 こうした需給構造がある以上、例の商法は続くでしょう。

こうした診断士グループは、「ヒヨコ食い」と言えるかどうかですが、そこまで悪質ではないと思います。新人に対して、先輩、後輩関係や義理といったものを使って引き込んで、修行と称して無償作業を要求する点は、良くないと思いますが、仕事を断ることも、抜けることもできます。

 当時、独立して稼がなければならない立場としては、失望させられましたが、実務ポイントが必要な人にしてみれば、年1万くらいの会費で、会合で誰かの発表が聞けて、ボランティア的な仕事とは言え実務の機会といくらかでも報酬が貰えて、実務ポイントも付けば、大満足だと思います。
 先に挙げたグループBだって、ほぼ無償でも実務ポイントがもらえる案件を多数確保できれば今頃は盛況していたと思います。
 
 こういう類は、独立したら是非、いろいろやってみて味わってみてください。これはこれで社会勉強になります。
引き際さえ気を付ければ大丈夫です。
 独立したら、思うようにいかないことばかりです。このくらいで腹を立てたり、一喜一憂する人は独立には向きません(といつも自分に言い聞かせています)。

独立後、まずはいろいろ下積みをしたいという場合は、経営コンサルタント会社か、診断士グループでも「ちゃんとビジネスとしてやっている」、「幹部および参加メンバーが若くから独立している人が多い」グループに関わるのが望ましいと思います。
※経営コンサルタントは怪しいところも多いので注意が必要です。

個人的に独立したての診断士にとって、一番危険なヒヨコ食いは、民間企業(経営コンサル等)の方にあると思います。
具体例で言えば、一式、総価契約で行う委託や請負的な業務です。
独立したばかりで収入の当てがない人が、業務金額500万円、納期1年後と言われると、心が揺れてしまうと思います。
一式の委託や請負契約というのは、請けてしまえば、仕様の範囲が不明確であると、いくらでもケチをつけられて報酬を支払うかどうかも発注者次第になります。圧倒的に発注側の立場が上になります。
延々と1年以上奴隷のように使いまわされてしまう危険があります。
よっぽど信頼できる顧客で、経験を積んでいる人以外は、こういう仕事は受けない方がよいです。

最初は、短納期・小規模の業務か、日単価方式で動く方が、リスク面では安全です。
私の場合は、民間コンサル会社に「日3万で仕事をさせてください」と売り込んでいましたが良い経験を積むことができました。

 ここまでの話を聞いて、「面白そう!」と感じた人は、独立に向いています。是非、独立して実際に味わってみてください。