中小企業診断士が独立後、何年経っても食えない状況(あるいは低空飛行)で八方塞がりになるケースは結構あるみたいですね。
私は、人材ビジネスを営んでおり、登録者〇百万人を謳う大手の人材ポータルサイト(○○ナビみたいな)の人材紹介業者向けの有料サービス(業者は、登録人材の経歴書を閲覧や、スカウトメール送付ができる)を利用していたことがあります。
そこで「中小企業診断士」で人材検索をしてみたのですが、この時、30~40代くらいの独立している中小企業診断士が何名か検索で引っ掛かりました。
独立5年目くらいで公的支援機関関連の仕事をしている人達でしたが、生活はかなり厳しそうで、希望年収が500万~600万となっていました。
しかも、悲しいことに、独立している診断士へのスカウトメール数は、少なめでした。
転職市場における採用企業側から見ると、独立経験は、プラスにならないようです。
※ちなみに、企業内診断士の登録者は高給な人が多く、スカウトメールも多かったです。
そこで、八方塞がりになってしまう原因や、対応策について考察してみたいと思います。
1.独立後に食えなくて八方塞がりになっていく過程
①奮闘期間
独立時、多くの人は、食べていくために以下を想定しています。
- 公的支援機関の専門家派遣、半常駐(サブマネ、支援員)の仕事で月30万以上の安定収入確保
- 中小企業診断士協会等の人的ネットワークに入って、先輩から仕事を回して貰う
- 過去の仕事関連からの紹介等で、仕事が貰える
- 補助金等のビジネス(厳しい状況になりつつある)
- フリーランス紹介会社登録
- 診断士受験講師、セミナー講師
大体の人は、独立後、上記のものを同時並行的にトライしながら、なんとか食べていけるようになることを目指します。
そして1年~3年くらいで、ある程度は、目途が立つ場合が多いと思います。
しかし、補助金関連ビジネスがダメになりつつある現在では、診断士は「冬の時代」に迎えつつあり、公的支援業務や先輩からの紹介があまり期待できない状況です。
独立して一番つらいのは、経験を積みたくて応募しても「経験不足」が理由で断られることです。
そこで「なんでもやります」的にスケジュールを埋めつつも、収入的には、低空飛行が続く場合が多いみたいです。
この状態が続くと、気力が萎えます。そして、打つ手が尽きる「八方塞がり」に陥ります。
キャリア迷子になり、投資家や難関資格取得を目指したりして迷走を始める人もいます。
②再就職の模索
その後、多くが「再就職」を検討すると思います。
この時、将来の再独立を期して、キャリアを積むためにコンサルや、金融機関、М&A仲介会社などを目指す場合が多いですが、みなさん、なるべく大企業で有名な所に行きたがります。
30代後半以降は、有名企業への就職は難しいですが、中小クラスの会社には、就職ができる時代になって来ています。給与もそれなりに貰えると思います。 良い時代です。
ただ、これら企業で積むキャリアは、コンサルタントと名乗っていても、実際の仕事は「営業」だったり「エンジニア」だったりする場合も多く、将来、中小企業診断士として再度、独立するための「経験と実績」にはなりにくいと思います。
将来のフリーランスのスキルにはなるかもしれませんが、長期的にそれでやっていくのは難しいと思います。
そのため、再就職後は、結局は、再独立への気持ちを失っていくケースが多いと思います。
2.八方塞がりになる原因
独立後、3年~5年目経っても、低空飛行が続き八方塞がりに陥ってしまう原因は、独立後の数年間の過ごし方にあると思います。
端的にいうと、公的支援(税金)や先輩などの人的ネットワークに依存し過ぎです。
理想的には、奮闘記の独立後の3~5年間、労働時間にして1万時間以上の期間を、戦略的に活用すべきだと思います。
具体的には、どこのプロコン塾でも指導するように、「専門特化型のコンサルタント」として独自メニューやコンテンツの情報発信などに時間を割いていれば、3年後に、例え低空飛行であっても、その後の展望はだいぶ見えていたはずです。
多くの人が、中小企業診断士に合格すれば、あるいは、独立して数年も経験を積めば、独自の強みが身に付いたり、コンテンツ等が書けるようになると勘違いしていますが、実際には、独立後に、「専門特化型の経営コンサルタント」になるべく主体的な活動をすることは、多くの人にとって、大変な困難が伴うようです。
特に、独自のコンテンツが作れない人が圧倒的に多く、あっても、どこかのコンテンツを繋ぎ合わせたようなものばかりです。
資格試験のように、あらかじめ回答があって、試験を受けて合否が決まるものをクリアできても、何かのプロになって、自分一人で食べていけるようになるには、大きな壁があります。
試験も回答もないものを、自分で考えて、ゼロから1を作ることには困難さがあります。
今後は、「診断士の冬の時代」が予測され、「公的支援業務に食い込めず」、「専門特化型の経営コンサルタント」にも成れない人達が「八方塞がり」になる状況が増えそうです。
3.中小企業診断士の新たな有望分野
公的支援関連予算が縮小する「診断士冬の時代」、専門特化型の経営コンサルタントに成れる自信もない中小企業診断士は、独立を諦めるべきなのでしょうか?
個人的には、中小企業診断士の新たな有望分野が、形成されつつあるように思います。
①中小企業の「かかりつけ医」的な存在の可能性
一般に、コンサルタントは業種や課題、専門などを特化している「スペシャリスト型」が中心です。
医者は「専門医」と「かかりつけ医」に分かれることからも、コンサルタントにも「ゼネラリスト型」の、中小企業の「かかりつけ医」的なコンサルタントとなるビジネスモデルが本来はあるはずです。
ただ、中小企業の「かかりつけ医」的なモデルは、現時点では、公的支援機関が行う、ほぼ無料の経営コンサル的サービスと重なり、ビジネスとして成立させることに難しさがあります。
日本企業は、知恵とか相談・アイデアに報酬を支払う感覚が希薄です。
しかし、今後、公的支援が縮小していく中で、企業への救済措置や、バラマキ政策的な補助金も期待できないとなると、自力で何とかしなければならない気持ちが企業側に定着してくると思います。
そこで、中小企業に対する経営コンサルタントの市場が、ようやく日本において確立してくる可能性が高いと思います。
特に、中小企業向けのコンサルの場合、直接受注、長期契約の「かかりつけ医的」な経営コンサルタント市場の成長が期待できると思います。
②与えるサービスの種類
コンサルタントが提供するサービスは、専門スキル、情報提供、診断・提案、問題解決、教育、労務提供、ステータス感・安心感、紹介・仲介、などの、いろいろなパターンがあります。
公的支援関連業務は、時間、回数、予算等の制約が大きいため、情報提供(相談)を中心に、簡単な診断等のサービスを、提供する感じです。
中小企業経営のおける一番の課題は「実行」です。
理屈で分かってもやれないのです。
そのため情報提供や診断だけでなく、現場に入り込んで手取り足取り、場合によっては実務まで提供してくれるコンサルタントの存在は、かなり希少性があるように思います。
以上より、まとめると、中小企業診断士の有望分野として以下が考えられます。
・中小企業の「かかりつけ医」、「社長の右腕」、「何でも屋」的存在として、企業の課題に対応
・直接受注で、長期的な関係を構築
・情報提供・診断だけでなく、企業内部に入り込んで、幅広いサービスを提供する
地域密着型の中小企業診断士のベテランには、既にこういう感じの人は、存在していると思います。
公的支援と、直接受注を併せて、安定して稼がれていると思います。
また、過去に中小企業の総務経理、経営企画全部一式の労務を月15万で行うビジネスをしている診断士に逢ったことがあります。
作業量は、一社当たり、月3日程度で、5社の顧客があるそうです。
※作業量は15日/月(3日×5社)、売上75万円/月(15万×5社)となる。
4.中小企業の「かかりつけ医」的な経営コンサルタントになるための方法
中小企業診断士が「中小企業に長期的関係で、幅広いサービスを提供する」ビジネスですが、これを実現するために、一番大切なことは「中小企業経営の実務と実態に精通する」ことだと思います。
一方、中小企業診断士は、大企業出身者が多く、人材や体制、設備、資金等の制約が大きい中、なんとか回っている「中小企業経営の実務と実態」に詳しい人は、ほぼいません。
また、独立後、公的支援機関の業務や、先輩から紹介された仕事を何年続けても、「公的支援業務」の理解は進むと思いますが、「中小企業経営の実務と実態に精通する」人材になるのは難しいと思います。
では、独立してから、どのようなキャリアを積むのが良いのか?
という点ですが
「税理士事務所」で働くのが良いのではないかと思います。
税理士事務所のビジネスモデルは、税務等の独占業務を中心に周辺領域も含めてビジネスを行っています。
その事業の成長モデルとして、税理士を中心に、若手(税理士、受験中)や多数のパート・アルバイトさらに他士業 (社会保険労務士、行政書士、中小企業診断士)などを抱えて、税務会計、労務、行政手続き、経営コンサル、助成金・補助金などをワンストップで提供することを目指す場合が多いと思います。
税理士事務所で、中小企業診断士が働く場合、各士業の補助、または、独占業務に当たらない経営診断やコンサル、あるいは、その他、「何でも屋」的に業務をやる感じになると思います。
「中小企業経営の実務と実態に精通する」には、とても良いキャリアになると思います。
5.独立してからのモデルケース
独立後の活動のモデルケースを考えてみます。
まず、年間活動時間(実務と勉強)を3,000時間として、以下の①~③を行います。
①税理士事務所で働く(年間1,000時間)
税理士事務所のアルバイトは、どの地域でも求人がたくさんあります。
時給は、東京2,000円、地方1500円くらいです。
中小企業診断士優遇と謳っている求人もあります(正職員ですが)。
できれば、税理士事務所でも、社会保険労務士や行政書士などが在籍していてワンストップサービスを提供しているところがよいと思います。
しかし、組織が大きすぎると部署が細分化されてしまうので、幅広く経験を積むためには、小規模な事務所が良いと思います。
雇用形態は、アルバイトで十分です。
ここで、年間1,000時間×時給2000円で、年間200万くらいの収入を確保できます。
プライドは捨て、他の士業の補助や、その他、どんな仕事でもやっていきます。
よい経験が積めない場合は、働く事務所を変えていきましょう。
②中小企業診断士業界での下積み(年間1,000時間)
公的支援機関や、中小企業診断士の協会や先輩などの人的ネットワークからの仕事などをチャレンジし、中小企業診断士としての下積み活動を積みます。
③自主勉強(年間1,000時間)
「中小企業経営の実務と実態」に精通するための勉強をします。
資格取得をしていくこともありです。例えば、簿記、IT系資格、FP、ビジネス検定系のもの(法務、労務、会計など)、また、他の士業(社会保険労務士や行政書士)などの補助(実務)をしているのであれば、そうした資格を狙うのもありだと思います。
上記の通り、1年間を「税理士事務所でアルバイト1,000時間」、「中小企業診断士の下積み1,000時間」、「勉強1,000時間」の生活を3年間続けると、それぞれ3000時間のキャリアを積むことができます。
すると、中小企業経営の実務と実態に詳しく、中小企業診断士業務にも詳しく、社会保険労務士や行政書士を持っていてもおかしくありません。
年収的には、初年度で300万~500万、3年目には、かなり稼げている可能性も高いですし、仮に収入は低迷していても、将来的な展望は見えていると思います。
そこからは、直接受注を拡大したり、より有望なものに注力するなど、自分で考えて、主体的に動けば良いと思います。
修行を積ませてもらった税理士事務所とは、長期的に良い関係を保って、双方の利益になるようにすることは注意が必要です。
※顧客を奪ったりしないようにしましょう。
おわりに
私が独立したリーマンショック直後の時期は、公的支援が縮小し、診断士にとって厳しい時代でした。
その頃、若手の独立ブームでしたが、みんないろいろやって必死に生き残っていたと思います。
※だからベテランに「補助金コンサル」に批判的な人が多いのだと思います。
その後、東日本大震災や政権交代などから、長年、補助金バブルが続きましたが、ついに「診断士冬に時代」に突入したというか、本来の姿に戻った感じがします。
補助金バブルでおいしい時代を過ごしてきた人は、いまさら、地道なコンサルタントをやる気力は起きないでしょうし結構辛い時代かもしれませんね。
現在、独立を考えている中小企業診断士の人で、特に専門性を持たず、また、専門特化型のプロのコンサルタントになる自信も無い人でも、公的支援予算も削減され「診断士冬の時代」においても、独立を諦める必要はないと思います。
むしろ、中小企業向けの長期伴走型コンサルタントの市場は、これから急拡大が始まると思います。
ご参考になれば幸いです。