私は、元々は建設技術コンサルタントでしたが、中小企業診断士合格後に、「経営コンサルタント経験ゼロ」で独立しました。
そのため、独立当初は、「経営コンサル経験ゼロで、独立できるわけない」と、ダメ出しされたことがあります。
独立前後の不安な時期は、「経験不足!」とダメ出しされると「事実」でもあり結構、悩みました。
何事も突き詰めて理解したくなる性分でもあり、直接受注でコンサルを行う目標のためにも、「コンサルビジネスとは?」という問題を、いつも悩んでいました。
コンサル業は、サービス業の一種ですが、サービスという無形の機能を提供して報酬を受け取るビジネスについて、突き詰めて考えていく中で、技術士(経営工学部門:サービスマネジメント)を取得してしまったほどです。
そうした試行錯誤の中から得た知見を、経験ゼロで、悩む人のために、述べようと思います。
1.経営コンサルタント経験は即・独立につながらない
現状のコンサル業界人気の理由の一つとして、経営コンサルタントで5年も経験を積めば、「経営の知識」と「独立できるスキル」が身につく、と考えている人が多いのです。しかし実際は「大手コンサルタント5年以上経験者の離職者後のデータ」を見たことありますが、コンサル会社や事業会社への転職者が多く、起業や独立は10%程度で、独立形態もフリーランス(下請け)が大部分です。
コンサルタントでのキャリアが必ずしも、起業や、顧客から直接受注するコンサルのような独立には結びつくとは言えないと思います。
コンサルタントといっても個人が経験できる範囲は、たかが知れています。
例えば、コンサルタント業は、どのくらいの種類がある(潜在的なものも含めて)と思いますか?
例えば、コンサル業が「専門分野」、「対象業種」、「顧客規模、地域」の三区分、それぞれ20種類があるとしたら、20×20×20=8000種類のコンサル業種がある(潜在的には)ことになります。
現在、コンサルタント業として市場化しているのは、せいぜい数百種で、全体の数パーセントです。
さらに、コンサルタント会社で経験を積めるのは、たった一つのコンサル業種の経験です。
次にコンサルタント会社のビジネスフローを考えてみると
大まかには、営業・マーケティング→提案受注→業務実施→報酬という流れで、それを支える間接部門の人々もいます。
コンサルタント個人の経験は、このフローの中の一部分をチームで関わるにすぎません。
また、やり方も、先人がルーチン化し、ある程度定型化した業務を行っています。
仮にコンサル会社のエースが独立しても、一人でビジネスフローを成立させるのは、かなり難易度が高いことが分かると思います。
※こういう形の独立は、仲間を複数人引き連れて、かなりの初期投資をするリスキーなパターンが多いと思います。
また、コンサル会社で5年以上の経験を積んで、ロジカルシンキングが得意でも「経営能力」や「起業して成功できる能力」が身についているわけではありません。
現在、コンサル万能論的な論調がありますが、そこは、あまり期待しない方がよいと思います。
2.コンサルタント経験が独立に役に立つ点
コンサルタント経験は、即・独立にはつながらないと述べましたが、独立時に有利に働く点もあります。
① コンサルビジネスへの暗黙知的な理解度の高さ
ビジネスはすべて「価値を提供して報酬」を受け取っています。
例えば、製造業は「物を作って売る」。商社や小売りは「物を仕入れて売る」。金融業は「お金を貸して利息を取る」といった形です。その中でサービス業は「機能という無形なもの」を提供して報酬を受け取る業種になります。
コンサル業は、サービス業であり「知的価値」を提供して報酬を受け取る職業になります。
「知的価値」を提供して報酬を受け取るコンサルビジネスを成立させるには以下の条件が必要になります。
- 顧客満足度の確保:顧客利益(受け取る価値)が「コンサルフィー」よりずっと大きいこと
- コンサル成果は、顧客との協働生産物であり顧客側の協力が不可欠(サービスの協働生産性)
- 顧客満足度は、コンサル成果のみでなく、業務中の関係も重要(生産と消費の同時性)
コンサルビジネスの難しさの根本は、物を売る業種と違い、知的価値という無形なものに人間は価値(効果)を感じにくい点があります。
また、顧客は大金を払っている側なので、立場が上で態度は大きいですし、顧客自身が動くのは、面倒くさいと思っていますし、コンサル効果を感じにくく、コンサルに不信感を持ちやすいのです。
先に挙げたコンサルビジネスの成立要件を満たすことは大変です。
コンサルタント業は、その前提で、フィー以上の知的価値を提供しなければなりません。コンサル実施のために、目標達成に向けて顧客を動機付けて、協働作業しながらも、常に適切なコミュニケーションをして、信頼を勝ち取る必要があります。
現実は、常にトラブルや、多くの制約やリソース不足の問題を抱えながらも、何とかこなしていく感じの日々を送っています。
さらに、社内的には売上・利益のノルマを達成する必要があります。
それで売上ノルマが一人3000万と言われたら、そのきつさが理解できると思います。
こうした修羅場を5年、10年と経験して得られる暗黙知(コンサルビジネス感覚)は、顧客から直接報酬を受け取るコンサル種別全般に普遍的なものであり、中小企業診断士として独立時には、有利に働くと思います。
※ただし、楽な仕事に逃げるコンサルタントも多いので、レベルの低い人もいます。
公的支援の専門家へのクレーム例で、顧客に、部長気分で説教を始めたり、元勤務先の自慢を始めたりする人がいると聞いたことがあります。(私は見たことないですが)
コンサル経験者から見ると、根本的に、顧客の抱える問題や悩みにフォーカスする意思(価値提供の意思)が足りない感じがすると思います。
② フリーランスでの稼ぎやすさ
コンサルタント業は、費用のほとんどが人件費の産業ですが、受注額は、年単位、さらに季節単位で大きく変動しますし、将来予測は、ほぼ不可能です。
受注額変動の不確定要素に対応するために、どこの会社も、一定比率を外注化するのが普通です。
いわゆる下請けとか、フリーランス等を使い、固定費を流動化しています。
ある程度の市場のあるコンサル分野で、エースクラスの人材が独立すれば、何も営業しなくても、多くの引き合いがあると思います。
また、会社員時代より収入が増える可能性はかなり高いと思います。
※個人的にはフリーランスを長年続けるのは結構、きついと思っていますが
起業あるいは、直接受注するコンサルタントを目指す場合、どうしても独立直後は、不安定な時期を過ごす可能性が高いですが、フリーランスで稼げる力があると、経済的に安定し、長期的に大きな目標に取り組みやすくなります。
3.独立前に経営コンサルタント経験を積むか悩んでいる診断士へ
① 若ければ、いったん経営コンサルタントに就職するのもあり
個人的独断ですが30代前半くらいまでであれば、いったん経営コンサルタント会社に転職するのもありだと思います。
若ければ、事業会社経験+診断士資格で、それなりのコンサルタント会社に転職できる時代であるので、挑戦してみる価値はあります。
ただ、将来の独立を想定するなら最低限、以下の三つが達成できる会社にすべきです。
- コンサルタント出身者という経歴(箔)を付ける
- コンサルタントビジネス感覚を身に着ける
- 独立後フリーランスとして高単価で稼げる力を付ける(独立直後の経済的安定のため)
※コンサルという名の派遣業や営業職も多いので気を付けましょう。
② 独立してからでもコンサル経験は積める
正社員としてコンサル会社に転職しなくても、独立してからでもコンサル経験は積めます。
ある程度の年齢以上の人は、わざわざコンサルタント会社に転職して、年数を過ごすよりは、まずは、独立してから、必要な経験を積んでいった方がよいと思います。
いきなりの高単価は難しくても、事業会社経験+診断士の経歴で、フリーランス等として使ってくれるコンサルタントは、見つかると思います。
※私も独立後4年目くらいまでは、フリーランスを、やっていました。
もしフリーランス先が見つからない場合でも、税理士・会計士事務所等でのアルバイトであれば、全国どこでも見つかるはずです。
おわりに
先に述べたようにコンサル業種が、8000種類くらいあるとして、その内、市場化しているのが全体の数パーセント、せいぜい数百くらいであって、膨大な潜在的コンサルニーズが存在すると思います。
直接受注で高単価を実現した中小企業診断士は、既に市場化しているものと潜在化しているものの境界あたりで、活動している人が多いように思えます。
顧客悩みや要望、ニーズに接する中で、競争の少ない、有望なものを偶然?発見し、自力で、コンサルビジネスフロー(営業~業務実施まで)を確立したと考えられます。
つまり、出身業種に関係なく、実現のためには、潜在ニーズを発見し、市場化して、ビジネスフローを確立する作業が必要となります。
既に市場化されているところで勝負しても、競争が多く、成功確率は低いです。
こうしたことを実現した人で、大手コンサルタント出身者は、レアである点を踏まえると、コンサル会社での経験がそれほど有利になるとは思えません。
せっかく、膨大な潜在ニーズがあるのだから、長期的(5年以上)は取り組める「目処と覚悟」がある人であれば、なるべく早く独立して、現場に出て、試行錯誤をしていくことが、最も実現可能性が高いと思います。
個人的には、高学歴、大手コンサル所属、ロジカルシンキング職人みたいな人より、自力でビジネスを成立させている人の方が凄味を感じます。
ご参考になれば幸いです。

