日本的組織の意思決定は「○○さんが怒る」で決まる説

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その3.中小企業診断士独立後
 中小企業診断士独立後、まずはネットワーク作りと、診断士協会などのいろんな研究会や集まりに参加していました。

 研究会に参加している時に、激高する人を何度か見かけたことがあります。
 怒る理由はいろいろですが、「講師が話しているとき机の上にペットボトルが出ているのは失礼だ!」とか、遅刻してきた人に対して激高しているのも見たことがあります。その他、携帯マナーや、質疑の聞き方が失礼とか、とにかく、マナーに関する「失礼な!」って感じのパターンが多かったです。
 また、ブログなどで、研究会後の飲み会で、最後に残ったつまみを食べたとか、そんなことをあげつらっているようなものも見かけたことがあります。公的支援機関に飛び込みで挨拶に行った人に対して、「なんで俺の許可を得ないで挨拶にいったんだ!」と怒った人もいました。
 個人的には、国際会議だって机の上にペットボトル置いてあるし、飲み会で、最後に残ったつまみ、誰も食べなければ食べます。もったいなから。そんないけないことでしょうか?と思っていました。
 とてもこんな人がビジネスやっていけないだろうと思うのですが、これが結構大御所でやり手だったりするのです。
 本気でマナーで怒っていたらアホだと思いますが、こうした一見不合理な行動も、激高して威圧することで、なんらかの効果を狙っているのでしょう。戦略ですね多分。そういえば、熱血カリスマコンサルって大体強面ですね。
 ※過去にいろんな先輩を怒らせてきた自分としては、絶対に向かない環境とすぐに理解しました。結局そうした診断士的序列には入ることもできなかったので、実態がよく分かりません。

 そんな私でも、専門家派遣や、コンサル会社のフリーランス、その他直接受注等で経営コンサルは、それなりにはやりました。
 私の専門の建設分野の企業では、自分達の職務を周りからブラックボックスにして、やりたいようにやるという感じが多くなります。社長も結果がでていれば何も言いません。
 そんな感じのところに、見える化とか情報共有等を提案すると、営業部は「技術部は何やっているのか分からん、見える化賛成!」、技術部も「営業部を見える化すべき!」なんて賛成するのですが、いざ実行となると、まさか自分の職務の見える化を求められると思っていないようで、古参の部長など「○○さんが怒った」が発生しちゃうんですね。「そんなことは聞いてない!」、「俺の仕事は見える化、不可能だ!」とか怒鳴り出すのです。
 「会社全体の利益増大のための計画に賛成したじゃないですか?」などと説得しても、断固拒否して出て行ったり、その後、他のメンバ―を抱き込んで参加しなくなったりして、社長までオロオロしだして、なかなか難しいものがあります。
熱血カリスマコンサルタントばりに、キレ返して、机を叩いて大声で威圧しながら説得すればよいのかもしれませんが、
私にはそれをコントロールするのは難しかったです(※当時の顧客の方々、成果が出せなくてすみません)。

 どこも、昔に居た会社と同じだな~と思っていました。 
 経営全般に関する本格的な経営コンサルを行うときは、経営者がトップダウンでやる覚悟をもっていないと「○○さんが怒る」で、うまく行きません。

 考察
 以上のように実体験として「○○さんが怒る」が、組織の意思決定に影響を及ぼしている事例を挙げてきた訳ですが、どうして、このようになってしまうのか考えてみると、まず、先輩後輩関係という文化的基層があって、そこから派生した、年功序列、終身雇用という制度が根本の原因であると考えています。
 つまり先輩後輩関係のある組織は、「○○さんが怒る」に意思決定が左右されます。この傾向は、大きな組織、人材の流動性が少なく、年功序列、終身雇用の組織ほど、強まるはずです。
 「寄らば大樹の陰」という言葉がありますが、大きな組織ほど、優等生的でステータス志向、リスク回避傾向の強い人が集まってきます。
 こういう組織は、人材の流動性も少なく、新卒入社から定年まで同質的な人間が何十年も同じ組織で過ごします。同僚は、仲間でありライバルでもあります。公私ともに濃厚な人間の利害関係があります。定年後だって、ずっとその関係が続きます。
また、大きな組織ほど、部門や職務が細分化されるので、ビジネスの一部に関わるのみで、ビジネス感覚、リスクを負っている感覚が身に着きません。なんとなく、社内が世界のすべてのような気がしてしまいます。
経営幹部もほとんどが、自社しか知らない人達です。

 「年功序列」というのは、「先輩が後輩を評価する」システムです。そして先輩が出世や引退すると順繰りに先輩が選んだ後輩に地位と権力を渡していく仕組みの組織では、先輩に目をつけられた人は、組織からはじきだされてしまうでしょう。
 
 そして先輩の言うことを聞かない後輩をコンロトールする手段、その第一弾が、「○○さんが怒る」なのです。直接怒る場合、あるいは「○○さんが怒っているよ」という間接的な情報として警告を行う場合もあるでしょう。
 そこで、先輩に詫びるか、行動を改めて忠誠を誓えば、怒りは収まります。逆に先輩に気に入られたり取り込まれたりすることもあるでしょう。 

「怒る」→「従わせる」という過程を周囲に知らしめて、先輩自身の権威は高まるからです。
 ところが「怒る」→「従わない」場合は、年功序列、社内秩序全体への挑戦として、先輩グループから、バッシング(嫌がらせや悪評をばらまく)が起こります。そこに、気に入らないあいつを叩くチャンスと参加する人、単に誰かを攻撃したい人、素直で悪評を信じてしまう人などが合流し、内心同情しても同調圧力で距離を取る人、火に油を注げと、叩かれている人に、親切にも誰が何を言っているのか逐一報告してくる人も出て来ます。
このようにして、組織全体から攻撃を受けることになります。


 この状況に陥ると、誰でも大変つらい状況になってしまいます。かといって飛び出す勇気もありません。そのため「○○さんが怒る」ということを極端に恐れるようになり、組織の意思決定が「○○さんが怒る」で決まってくるようになります。
 
 社内の人間関係ばかり気にして、徒党を組んでお互いかばい合ったり、顔色を窺って生きるようになります。
組織論的には、非公式組織が肥大化し企業経営を支配している状況に陥ります。
もうそうなると社長や株主ですら組織に手を出せません。

 こういう状況が長年続くと、組織本来の経営目的はどこかに吹き飛んで、組織の現状の人員(正社員)の既得権、秩序を維持することだけが目的になっていきます。
 
 耳障りのよいことだけ言って、成果を粉飾し、具体的な行動は何もしなくなってきます。
組織のステータスと自己評価が一体化して、選民的な思考を持つようになります。「社員に非ずば人に非ず」です。
 こういう組織は仕組み維持するためにスケープゴートが必要です。
 そして、意見する者を糾弾することに組織全体が熱狂するようになります。

 多くの日本的組織の現状であり、非正規社員や派遣、偽装請負の社会問題もここに起因していると思います。
 さらに、ワーキングプア、中高年ニート、パワハラ、セクハラ、サービス残業、職場うつ、燃え尽き症候群、下請けたたき、これらだってこうした序列に入れなかった人や、あるいは序列にしがみつかなくては生きていけない人が多いことに起因していると思います。
 究極で言えば、少子化や、経済の低成長、国際競争力の低下の要因としても大きな部分があるかもしれません。

 個人的には、年功序列は、人間の活力と能力を低下させる仕組みと思うのですが、こうした組織の人の現状維持への願望は、老いも若きも強烈で、現代の新卒の人気就職先は、公務員か、インフラ系で、こうした序列への憧れはすごいです。
 日本国民の総意じゃないかと思うくらいです。だから政治すらも手を出せません。いろんなところが怒りますから、だから今後も、年功序列の終身雇用というのは、よほどのことが起きない限り続くと思います。
しかし、リスク回避傾向の強い人たちが集まって、組織を支配して誰もリスクを負わない理想郷をつくっているこの仕組み、最終的には誰かがそのつけを払うことになります。
 それが企業の衰退、破たんなのか、国の衰退なのか、行くとこまで行かないと変われないような気がしています。

※この状況を打開する方法の一つとして、優秀な人材の流動性を上げることだと思っています。
 私個人は、人材紹介業を運営しておりますが、エンジニアのキャリアアップを支援し、建設関連のエンジニア、マネージャークラスの人材の流動性を高めることに、大変意義を感じています。

 このサイトを見ているのは、中小企業診断士の人や、勉強中の人が多いと思いますが、こうした組織に所属している人も多いと思います。せっかく身に着けた知識をどう生かすかですが、経営等の改革は、組織内で正面から理詰めで推しても、私みたいな目に遭うと思います。
 しかし、「○○さんが怒る」のメカニズムを理解し、逆に上手く利用すれば、相手をコントロールすることできるだってできるかもしれません。
 社内政治をゲームとして考えると奥深いものがあります。
 上手く考えて、社内でやりたいことをやる。あるいは出世というのも面白いかもしれません。

 「俺はそんなことまでして組織にしがみつかない!」って人は、せっかくだから、藪をつつきまくって、虎の尾を踏んでみてください。
 きっと貴重な体験が積めると思いますよ。さらに、親切な先輩達に独立の後押しをしてもらえるのでラッキーです。
 これぞ一石二鳥!